2005年06月号 掲載
静かに広がる危機
エイズの流行と企業の役割 
宮田一雄 (産経新聞社論説委員)
 エイズの原因になるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染が国内でひたひたと広がっています。厚生労働省エイズ動向委員会がまとめた昨年のHIV感染者・エイズ患者新規報告数は1165人と、初めて年間1000人の大台を超えました。今年4月には累積の患者感染者報告数が一万人を突破したことが明らかになっています。
 HIVに感染している人は報告数の2倍から3倍と推定されているので、日本には現在、少なくとも2万人のHIV陽性者(エイズ患者を含むHIV感染者)が生活していることになります。本気でエイズ対策に取り組まなければ、国内のHIV陽性者数はそう遠くない将来、十万人に達する可能性もあります。いま小学校に通う子供たちが人を好きになったり、結婚したりする頃には、そんな時代が訪れているかもしれません。  報告を感染経路別に見ると、性感染が圧倒的多数を占めています。男性同士の性行為による感染の報告件数が右肩上がりの上昇曲線を描いて増加しているのが特徴です。これは、大都市圏のゲイコミュニティではすでに流行が本格化しつつあること、事態の深刻さに気付いたゲイコミュニティ内部で予防啓発活動に取り組む動きが生まれ、検査を受ける人が増えたことの両方の反映だと考えられています。   一方、男女間の性感染は横ばいか微増にとどまっています。ただし、これは異性間の性行為で感染が広がっていないということを示しているわけではありません。エイズに対する関心が低下し、感染していても気付かない人が多いのかもしれません。  HIV感染の有無を調べる血液検査は保健所へ行けば無料、匿名で受けられるし、有料なら医療機関でも受けられます。  しかし、社会の関心が低ければ、検査を受けようと思う人は減り、検査を受けようと思っても、不安が大きく、差別や偏見が心配でなかなか検査が受けられないといった事態が生じます。無関心によって不安がなくなるわけではなく、逆によくわからないものに対する不安や恐怖が増し、社会的な差別や偏見を生み出してしまうからです。  これは社会にとっても、個人にとっても非常にまずいことです。昨年の年間の新規報告1165人のうち、385人はエイズを発症してはじめてHIV感染が判った「未検査発症例」でした。  感染からエイズ発症までの間には平均で10年もの期間があります。最近は治療薬の進歩で、発症前に検査を受け、感染が判明すれば、発症を長く遅らせ、発症しても回復が期待できるようになりました。
 しかし、未検査発症例の場合、最新の治療でも予後はよくないとエイズ診療の専門家は指摘しています。エイズに対する社会の関心が低いと、HIVに感染した人は早期発見、早期治療の機会を失い、助かる命も助からなくなってしまいます。
 一方、感染に気づかない人が増えると、社会的には予防対策が後手に回るおそれがあります。流行の拡大を認識できず、適切な時期に適切な対策をとる機会を失うことになるからです。
 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の推計では、昨年末の世界のHIV感染者数は3940万人に達しています。いま流行が深刻なのはアフリカですが、HIV感染の増加率でみると、世界で最も高いのはなんと中国や日本を含む東アジアでした。
 神戸では来月(7月)1日から5日まで、第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議(神戸エイズ国際会議)が開かれ、世界60カ国から3000人の参加が予定されています。会議のテーマは「科学とコミュニティの英知の統合」です。HIV/エイズ治療は大きく進歩していますが、それだけでエイズ危機と闘うことはできません。保健医療だけでなく、政治、経済、社会、文化などあらゆる分野の英知と指導力が必要です。
 企業にもまた、職場で感染予防とHIV陽性者に対する差別や偏見をなくすための研修を行うだけでなく、地域のエイズ対策を積極的に支援し、若者が安心して暮らしていける社会をつくるために大きな役割が期待されています。それは企業の社会貢献であると同時に、健全な市場の育成にもつながります。エイズの流行が拡大している中国や東南アジア諸国でビジネスを展開する企業ならなおさらです。環境対策や次世代支援などと並び、エイズ対策もまた、政府、企業、市民社会が協力して取り組む大きな課題であることを認識する必要があるでしょう。

第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議記念大阪コンサート のお知らせ

日本国内およびアジア・太平洋地域におけるエイズの流行が急激に拡大する中、今年7月1日から神戸で開催される第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議を支援し、エイズ対策への理解を広げる記念コンサートが開催されます。
出演者/ Dr.K project、BASE TALK、佐藤健作、アマオトラァラ
●日 時/ 7月2日(土)午後5時開場、6時開演
●開 場/ サンケイホール(大阪市北区梅田2丁目4番9号)
●当 日/ 4000円 前売り/3500円 (税込み・全自由席)
●発売先/
サンケイチケットセンター TEL:06-6345-5062
電子チケットピア TEL:0570-02-9999
ローソンチケット TEL:0570-00-0403、0570-06-3005(Lコード56344)
CNプレイガイド TEL:06-6345-5062

●問い合わせ/ サンケイチケットセンター TEL:06-6345-5062
●主 催/ 産経新聞社ほか