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1996年09月号 掲載

 
サバドールという名を持つ街 ブラジル・バイヤ州 
関 洋人 (大洲市在住)

マシン(右下)を売る男

泥ガニ売り
 さて、私が旅するとき、行く先々で必ず訪れる場所がある。メルカド=市場だ。中南米の市場はどこも様々な人種の血が複雑に混ざりあった人々でごった返し、正体不明の怪しい品々が所狭しと並べられている。辺り一帯には腐敗臭のいりまじった強い臭気が漂っているのが常だ。その中に身をおくと私はいつも、湧き上がる好奇心で時の経つのも忘れてしまう。そして、その至福の時を期待してメルカドを訪れるのだが、ここサルバドールの代表的メルカド、サン・ジョアキン市場もまた私の期待を裏切らなかった。迷路のような市場の中には、泥ガニ(故開高健氏推薦の一品)や精子の形そっくりのマシンという野菜、牛の眼球、蚊取り線香の代用品として使う干した牛糞、まるでとぐろを巻いた糞としか思えない煙草などなどの品物が山と積まれ、異邦人の私に異国情緒を超越した一種異様な迫力を感じさせるのである。さらに、通路の一隅では、なんと牛の解体作業の真っ最中だ。売り物にならない頭の一部とか、骨片は通路へポイ捨て。更に驚いたことには、ある店では主人とおぼしき中年男が、なんと壁に向かって立ち小便。排泄物は、店の床をチョロチョロ流れて通路の雑踏の中へ。
 中南米のメルカドは、われわれ日本人が既に殆ど失ってしまった人間本来の生活力の強さとでも言ったものを強烈に再認識させてくれる。
(つづく)


煙草。とぐろを巻いた糞のよう。

サルバドール最大の民芸品市場メルカド・モデロの外にあるヒッピー市。

 
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