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1998年04月号 掲載

 
ラパス 
関 洋人 (大洲市在住)

歓迎の踊りを披露する子供たち
 ラパスの低所得者住宅地、アルト地区の保育園で行われる歯科検診に立ち会うという日の朝、突然、立て続けに、激しい下痢が私を襲った。まずいことに、青年海外協力隊員として日本から派遣されているM衛生士たちと一緒に出かける直前のことである。昨夜の大食のせいだろうか、やれやれ、どうせ下痢するんだったら、ヨコヨコ村の例のボリビアいりこは食べておくべきだったなどと脈絡もないことを考えながら、おぼつかぬ足取りでミクロ(乗降自在の乗合いマイクロバス)を乗り継いで約四十分、なんとか持ち堪えて、アルト地区の保育園、「ロス・アンデス」へ着いた。保育園児により、遠来の客人を歓迎する踊りが披露される。先ほどまで、私の心は腹具合の行方を思いやるだけで精一杯の状態だったが、歯科検診が始まった頃には、ほんの少し回復の兆しが見えたようであった。  M衛生士の話では、当地の子供の口腔内の状態は、保育園児の段階では日本よりやや悪い程度だが、小学生以上になると日本よりも、遙かに悪くなるそうだ。それは、この国の小中学校の校門付近には、どこでも菓子売りの屋台が並んでいて、休み時間の生徒の買い食いが日常化しているというのが、その大きな原因であるらしい。
 M衛生士が持参した器具は、ピンセット少々、綿花、ぬれティッシュ、ペンライト、ミラー、それにカルテですべてである。この保育園の保育料は一ヶ月約二百円。歯ブラシは一本六十円から百六十円くらいもするからここに通う子の家庭には歯ブラシのない家が多い。JICAの現地職員は、中級職でも、給料とは別に支給される家賃の上限が約八五○ドル、便宜上一ドル百円で計算しても八万五千円だ。上級職だと千五百ドル、十五万円位になる。ところが、直接現地の人々と接する場所で必要な器具はこの程度しか揃えてくれないのである。ちなみにボリビア国民一人当たりのGNPは六五○ドル。


検診するM衛生士
 これが、清貧を喋々する本がバカ売れする日本という国の援助の実態である。
 M衛生士に頼まれ、彼女の仕事ぶりを写真に撮ることになった。彼女はいつも一人で仕事をしているから、仕事の記録写真を撮ることが出来ないのである。
 メモを取ったり、写真を写したり、検診の補助していたら、再び私の腹がグルグルと音を立て始めた。私は、額に油汗を浮かべ、必死の思いで我慢を続けていたが、遂に腹腔の内圧に耐えかね、意を決してトイレに向かった。そのトイレは、ここを訪れたJICA関係の日本人すべてが使用を憚ってきたところだった。
(つづく)

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