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1999年02月号 掲載

 
ペレン(ブラジル) 
関 洋人 (大洲市在住)

船着き場

カボックロの子供たち
 一月一日午前九時、アマゾン河畔のノボテルというホテルの裏から半日のアマゾン・クルージングに出かけた。アマゾン流域のベレンやマナウスの港には、この手の観光船が何隻も運行されている。
 観光船が繋留された桟橋は水面の七~八メートル上にある。潮の干満や雨季乾季の水量の増減による水位の変化に応じて水面の高さがそのくらい上下するからである。
 二階建てでかなりの大きさの船であったが、客はわれわれを含めて十四五人に過ぎず、船内は閑散としていた。時刻が来ると、船は音も無く岸を離れ、薄曇りの空に覆われたアマゾンに出た。目的地はコンブー島である。
 しばらくして、水平線が目前に広がる大きな流れから、両側にジャングルが迫った十メートルほどの水路に船が入った。岸に住むカボックロ(カボックロという言葉はブラジルではよく使われる。本来、インディオと白人の混血した人を意味するが、現在は田舎者ぐらいの意味で使われることが多い。ある人がうまいことを言っていた。カボックロとは素足で暮らして不便を感じない人のことだそうである)の子供たちが泳いで船にやって来た。船の速度はそれほどゆっくりというわけではないが、子供たちは河岸で船が近づくのを待ち受け、タイミングを見計らって飛び込み、船にたどり着くと、舷側に取り付けられたブイや手摺に手をかけ、よじ登って船で遊んでいる。河の両側にはアサイヤシの木立とマングローブの森が延々と続く。森の中の水中の泥から、イモに似た植物が一面に生え出している。アニンガーという有毒植物だが、この葉をとって籠に入れ水中に吊るしておくとエビがよく獲れるそうだ。


クプアスー

ムスワン
 約一時間でコンブー島へ到着。この島にもアサイヤシが繁っている。ブラジルでは、ヤシの新芽は“パルミット”と呼ばれ薄切りにしてサラダによく使われるが、歯ざわりがよくて美味しい。私もこれが好物で、ブラジルへ行く度に缶詰を何個か買ってくる。アサイヤシが茂り、間にウルクー(薬や染料に使う)、ウシー(ジュースにする)、パラクリ(ナッツの一種)、パチュリ(香水の原料)等の散在するジャングルを散歩した。
 帰りに桟橋近くの掘っ立て小屋で、ムスワン(亀)は要らないかと聞かれた。いつものことながらついつい店に立ち寄ってしまう。ムスワンの肉はコマ切れにしてあり、デンデヤシの油を使って調理され、亀の甲羅のお皿にのせてあった。私は昼がわりにその店で熱帯性の果物クプアスーとムスワンを買い込み乗船した。船の上でさっそくためしてみた亀肉は、香草とファリーニャで風味を加えてあったが、やたらと固いばかりでそのもの自体の味わいがよくわからなかった。ちなみに公には、亀肉を食することは禁じられている。(無論このことは先刻承知)
 コンブー島を後にして、単調という言葉をそのまま風景に置き換えたようなアマゾンの景色を眺めながらノボテル裏の桟橋に着いたのは午後二時過ぎのことであった。
(つづく)

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