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2001年05月号 掲載

 
ペルー・アマゾニア紀行 14
関 洋人 (大洲市在住)


 九時少し前に朝の市場を出て、ドクトルとアマゾンに沿った遊歩道を通ってホテルに向かっていると、手に蛇の皮を巻きつけた若い男が近づいてきた。広げて見せてくれる。長さは四メートルから五メートルはる。ドクトルは、いつものことだが、蛇、ワニ、オンサ(ひょう)、イグアナなどを持って近寄って来る人には極端に甘い。顔が緩み、時にはうっとりとした表情になる。蛇の皮を広げた男が一時間50ソルの料金でベレン地区をカヌーに乗って水上観光しないかと誘うと、二つ返事でOKしてしまった。
 十時にその男と会う約束をして別れた後で、そのドクトルが言う。「カヌーでわれわれを河の方へ連れ出して、身ぐるみ剥いで突き落としたりはしないだろうな」。この人はいったい‥‥。そんな心配をするくらいなら断ればよいち思うのだが‥。ホテルに帰り、たぶん一年三六五日変わることのないベーコン入りのスクランブルエッグの朝食を摂る。この日二度目の朝食。
 約束通り十時に、河岸に行って蛇皮の男と会った。するとそこにまた、例のパブロが現れる。パブロはニコニコしながら蛇皮の男は私の友達だと言った。これでドクトルのわけのわからない不安も消えた。
 十時半過ぎ、船外機を付けた小舟でベレン地区に向けて出発。水の上から見るベレン地区もまた興味深い。なにげなく目に入ってくる風景を眺めていると、アマゾン河がここに住む人々にとって全てなのだという思いが自然に湧いてきた。この河で魚を獲り、洗濯をし、泳いで遊び、用も足している。河岸はゴミで出来ているかのようだ。短い時間だったが、ベレン地区の最深部にも入って散策した。パブロが夜は危ないから近づくなと言った辺りである。市場の中では売っていなかった生き物を売っている。小ワニは一匹3ソル。またドクトルの目が輝いてきた。先を促すと、手にとって未練がましくしげしげと見つめている。



 十一時半過ぎに元の河岸に戻った。蛇皮の男と別れ、角のファーストフードの店の方に向かって歩いていたら、またパブロと会った。今日は休日なのに、一人でも客を見つけようと歩きまわっているのだと言う。パブロを誘ってファーストフードの店に入って飲み物を飲む。ふとパブロが店の外を指さした。大宇の自動車のドアが開き、一人の男が運転席から出てきた。イキトスの市長だとパブロが言った。市長は少し辺りをうろうろした後、また自ら車を運転して去っていった。われわれは、少しお腹も空いてきたのでパブロを誘って昼食に出かけた。

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