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2003年11月号 掲載

 
マナウス(ブラジル・アマゾナス州) 
関 洋人 (大洲市在住)

黒ピラーニャの刺身。
ブラジル国産さくら印醤油とハウスねりワサビが用意してあるが箸はなかった。

釣り上げられたピラーニャ。
足元に一際大きい黒ピラーニャ。
 一九八九年一月一日。朝六時起床。八時過ぎにマナウスの港で例の褐色の氷を購入し釣りに出発。ネグロ河は魚影が薄いとのことで、コーヒー牛乳の色をしたソリエンテス河に向かう。九時過ぎにポイントに到着。そこで本船からカボックロ爺さんの操る小舟に乗り換える。本船は一旦、マナウスの港に引き上げ後刻迎えに戻る手筈だ。
 釣り場の水面は、浮草に覆い尽くされ、一見陸地と見まがうほどだ。氷に穴をあけるワカサギ釣りではないが、茂った浮草をかき分けて水面が見えるようにしてから釣りが始まる。水深は約七メートルから八メートル。餌は牛肉。仕掛けなどは何もない。ただ、一メートル半ほどの棒切れに針と糸。それだけである。そして、始終水面をその棒でピシャピシャと叩きながら釣るのコツだ。それは水面に生きた餌がいると思わせるためである。すぐにドクトルにあたりがあり、最初の獲物赤ピラーニャが上がる。ピラーニャ類の歯は極めて鋭く、針をはずすときは魚の背と腹を強く圧迫して動きを制しておかなければ極めて危険である。試しに釣り上げたピラーニャの口に草の茎を突っ込むとスパッと、切り口も鮮やかに咬み切ってしまう。
 この河に棲息するピラーニャには赤、黄、白、黒などがある。その中で、いちばん獰猛で大型なのが黒ピラーニャ。念願の刺し身を食するためにもぜひ大型の黒を釣り上げねばならないのであるが、一行六人が釣り上げるのは皆、ありきたりの赤ピラーニャばかりだった。赤ピラーニャの食いが落ち、中だるみ状態になったときにS氏に強いあたりが来た。余りの強さに狼狽している。カボックロ爺さんに手伝ってもらいやっとの思いで獲物を上げてみると、いい型のよい黒ピラーニャである。


A君はピラーニャの骨を歯肉に突き立ててしまった。

 灼熱する太陽に焼かれ、水面からの照り返しもあって全身汗だくだが、それが不思議と心地よい。水面下にはピラーニャがうようよしているらしく、針を下ろすとすぐあたりがあるが意外とあわせにくい。皮肉なことにいちばん釣果が少なかったのが一行ではもっとも釣りの場数を踏んでいる私であり、大型の黒ピラーニャを釣り上げたのが釣りは初心者に近いS氏であった。午後一時過ぎ、約四五十匹のピラーニャを釣り上げた私たちは迎えに来た本船に移ってピラーニュ尽くしの昼食。大型の黒は刺し身になって大皿に盛られている。添えられた六本のフォークがなんとなく異国情緒を感じさせる。刺し身はヒラメそっくりで非常に美味であった。中型の赤は唐揚げ。表面に細かい刻みを入れて揚げてある。これまた旨い。ピラーニャの骨は歯と同様硬くて鋭い。夢中になって食べていたA君は、その骨が奥歯の歯茎に刺さってしまい、家内に抜いてもらっている。小型の赤はスープ。これは船員達の昼食になった。
 実のところ、われわれは、日本でもサンパウロでも川魚の刺身には寄生虫がいるから食べてはいけないと釘をさされていた。しかし、いちばん神経質なS氏を筆頭にみんな舌鼓に夢中で、そんなことはすっかり忘れてしまっていた。幸いその後、今日までわれわれの健康には何も異変が起こっていない。
(つづく)

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