過去の連載記事
同じ年の連載記事
2005年07月号 掲載

 
 
関 洋人 (大洲市在住)

典型的モレーナ
 そもそも、リオの治安の悪さについて書いていて話がそれた。リオは地獄の部分だけでは決してない。はじめに書いたようにコパカバーナ~イパネマ~レプロンと続くリオを代表するブライア(浜辺)は、日がな寝そべっておしゃべりしてればそれで全てよしとでもいった、怠惰と快楽を至上の美徳とするかのような空気に支配されている。少しでも、その雰囲気を味わってもらうため、おしまいにリオの魅力をいきいきと伝える私の好きな文章を引用させてもらう。コパカバーナ海岸のとある情景の描写である。
 「見ると、チクレ(タブレット型チューインガム)売りの女の子、六~七才の二人組が、今客の去ったばかりのテーブル際からボーイを呼んでいる。彼女らは、ボーイに客の残していったフリータス(フライド・ポテト)を貰っていいかと尋ねているのだ。ボーイ、それは中年の、人の良さそうなおじさんなのだが、彼は女の子たち(もちろんモレーナ、ミルクコーヒー色の女の子だ)の方に肯定的な表情と仕草を見せながら近づいていく。それを見て、女の子たちは、お芋を一本ずつつまみ始めた。ボーイは、彼女らと、ひとことふたこと言葉を交わし、そして腰をかがめた。何をするかと思うと、女の子たちのうち、大きな声を出していた活発な女の子の方が、彼の頬にキスをしたのだ。そして彼女らは、紙ナプキンに残りを包んで、『オブリガーダ(ありがとう)』と元気な声で言いながら歩き出す。それはとても、美しいの一言では片付けられないほど心を動かす新鮮な風景だった。キスをする少女の仕草の素敵だったこと!」
 (『赤道地帯』[コレクション・ブラジル3]ジル・ラプージュ/管啓次郎訳 弘文堂刊より)
(了)

Copyright (C) H.SEKI. All Rights Reserved.
1996-2007