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2006年05月号 掲載

サンフォーナの調べ 
 
関 洋人 (大洲市在住)

サンフォーナ(アコーディオン)を弾きながら歌う老人
 昼食後に一人でもう一度、シセロ神父の教会の近くへ出かけた。件の露店街をうろついていると、教会の方向からサンフォーナ(アコーディオン)の調べに乗って渋い歌声が聞こえてきた。声のする方へ歩いて行くと、盲目と(思える)老人が熱演していた。すぐ傍らには老人の娘であろうか、身のまわりの世話をしているらしい女性とその子供がいた。
 聴衆の中に加わって聴いていると、曲の変わり目に集まり散じてはいくものの、常に三十人から四十人ほどの人がいる。一曲が終わる毎に老人は深々と頭を下げて帽子を差し出す。すると聴衆のうちの何人かが一ヘアル(百円)札を入れる。二時間近く前の方の石段に座って、ずっと聴いていたが、結構いい稼ぎになるようだ。老人の歌っているのはシセロ神父を讚える歌なのだが、ちょっとディープサウスの古風なブルースのようでなかなか味わいがある。時々、客が前に出て来て、例の女性に何か言っている。すると、彼女は、老人の足下に置いてある汚いバッグから何やら取り出して新聞紙で包み、手渡している。確かめてみるとカセットテープであった。一つ四百円程度。この老人、なかなか商売上手である。このテープ、私も一つ買ったが、非常に録音状態が悪い。ひどく雑音が多いのである。ところが、聞いていると、雑音の存在が、まるでSPレコードの針音の用に聞こえてきて、かえって老人の歌をよりしみじみと、味わい深いものにしているのは皮肉なことだった。
 二十八日夕刻、私たちは、印象深かったジュアゼイロ・ド・ノルチを去り、レシフェへ戻った。
 (つづく)

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