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2001年02月号 掲載 

北九州学術・研究都市と門司の近代建築を見る 
 
 

建設中の早大理工総研九州研究所

JR九州第一庁舎
(旧三井物産門司支店)
昭和十一年鉄筋コンクリート造のアメリカ式オフィスビル。設計は米国に学んだ松田軍平。

門司郵船ビル
昭和二年。 達蔵・中条清一郎を顧問に日本郵船調度課の設計。門司港初めてのアメリカ式オフィスビル。

旧大阪商船
大正五年木造二階建。  設計 河合幾次/内海鶴松
 一月中旬、北九州市に、北九州学術・研究都市の建設現場と門司に残る近代建築を訪ねた。
 本年四月に始動する北九州学術・研究都市は、理工学系の国・公・私立大学が連携し、高い教育研究環境を形成して、次代を担う人材育成と教育研究を行う日本で初めての試みとして注目を集めている。市立北九州大学国際環境工学部のほか、国立大学の大学院や私立大学の大学院・研究所、英国・ドイツの大学・研究機関など国内外の理工系教育研究機関が集まり、研究者や学生の交流・連携・競争により柔軟で多様な教育研究活動を活発に展開する。企業との共同研究など産学の連携にも積極的に取り組み、新しい産業の創出と技術の高度化まで視野に入れているという。構想も雄大だが、実際に現地に立つと、竣工前の建築が建ち並ぶキャンパスの広大さに驚いた。
 四月にこの北九州・学術研究都市の中に開所される早稲田大学理工学総合研究センター九州研究所のエントランス棟前庭に宇和町在住の彫刻家ケース・オーウェンスさんが彫刻を置くことになり、ケースさんの下見に同行したのである。
 現地では、設計者である早大理工学総合研究センターの福田展淳さんから説明を受けながら、建物をまわった。早稲田の九州研究所はいろいろな手法で壁面にガラスを多用していて、学術研究都市の中でも一見して、清楚な印象を受ける建築である。いわゆるインターナショナルスタイルで、意匠はとてもすっきりしているが、それでいて細部に志を感じさせる温かくて品格のある個性を持った建築であると思った。
 設計者の福田さんは学生時代から、建築家の故松村正恒の学校建築が好きであったという。きっかけは大学の授業で教授からカルロ・スカルパとともに松村の作品のスライドを見せられたことだったそうだ。数年前に福田さんと一緒に八幡浜市の日土小学校など松村の学校建築を廻ったことがあるが、その時に福田さんが松村の建築を見ていると、設計者と会話を交わしているような気がして仕方がないとまで言っていたことを思い出した。
 今回の設計にあたっても松村のローコスト、片廊下式の学校建築が頭の片隅にあったそうであるし、設備的な省資源、低環境負荷を自然通風や自然採光によって実現するための工夫に少なからぬ影響も受けたそうだ。
 福田さんは、大きなガラスから光の降り注ぐエントランスホールで、吹き抜けの階段の手すりに門司にも作品のある、大正から昭和初期にかけて活躍した表現派の建築家山田守のディテールを採用していることを教えてくれた。こうすると横の線がとてもすっきりと美しく見えるのだという。
 少しの衒いも見えない、若々しく清潔な建築の細部に、新しい形で過去の建築の記憶を自然に甦らせていることに感心した。
 ケースさんの彫刻は玄武岩の作品三点で、エントランスの芝生の前庭に据え付けられる予定。四月の開学後には、ぜひ北九州のキャンパスと門司の近代建築群を訪れていただきたい。
(編集人)


門司駅
大正三年 鉄道省 木造。
ルネッサンス風を基調とし、セセッション(アールヌーヴォー系のうち直線性の強いもの)を加味した意匠。駅がターミナル形式なのもめずらしい。

旧門司電報電話局
大正十三年/山田守
意匠はドイツ表現派を源泉とする。
門司初のモダニズム建築。現存の山田の初期の作品としても貴重。


明治屋 門司支店
明治四十一年
煉瓦造二階建て/ 達蔵
明治後期の門司の繁栄を偲ばせる貴重な遺産。

三井物産倶楽部
谷町から門司港駅前に移築されている。設計不詳。明治四十年頃の建築か。
大正11年にノーベル物理学賞をもらったばかりのアインシュタインが投宿したという。

 
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