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2004年09月号 掲載 

八幡浜市立日土小学校 
 
 

喜木川に突き出た図書室のヴェランダ
 8月6日と7日の両日、八幡浜市立日土小学校で、「木霊の学校 日土会」という地元の有志の人々がつくった会が、建築に携わる人や建築を学ぶ学生たちを募って、勉強会や意見交換会を開いた。南予を中心に開催されている「えひめ町並博」のイベントのひとつということである。
 7日に行われた日土小学校の生徒たちと参加した学生たちや建築関係者との交歓会に出かけ久しぶりにこの校舎に再会した。
 日土小学校は、1958年に建てられた。当時、八幡浜市役所に勤めていた建築家松村正恒が設計した一連の学校建築の1つである。簡素で清潔な木造のインターナショナルスタイルは建築当初から全国の学校建築関係者の注目を集めた。北は栃木から南は宮崎まで多くの見学者が日土を訪れたという。築後45年になろうとする今も、この校舎は、軽やかで清潔な外観から、両面採光による明るい教室、喜木川に向かって張り出した図書室の屋根付きベランダ、そして教室から続いて飛び出した石を張ったコンクリートのテラスなど、個性の輝きを失っていない。
 松村が自らの言葉でわかりやすく、自らの建築を語った『無級建築士自筆年譜』(住まいの図書館出版局(星雲社)1994年刊。今も入手可)や『老建築稼の歩んだ道』(県立図書館にある)を読んで、この校舎を訪ね、細部をゆっくりと見てまわれば、松村の型にはまった学校建築を否定する情熱が、決して奇を衒ったものではないことがわかる。子供たちへのこまやかな気遣いとともに、公共建築としての役割と周囲の環境への深い洞察と配慮に裏打ちされた、ローコストでも本質的にいい建築をつくりたいという強い意志が手に取るように伝わってくる。松村は日土小学校について「窓台も低くして目にしみるのは川向こうの山の緑のみです。薫風にのって蜜柑の香りが教室にたちこめます。小魚のはねる音がしじまをやぶり、落ち葉の沈む川の底は冬の絵に変わります…」と書き残している。

避難階段も川に張り出し子供たちと周囲の自然を結ぶ空間になっている。

学生たちと日土小の子供たちの交歓

 
 

日土小学校の帰りに、さらに3キロほど奥に健在の日土東小学校の木造校舎を訪ねた。

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