過去の連載記事
同じ年の連載記事
2007年10月号 掲載 
南予は自転車で












 久しぶりに、しまなみ海道を一緒に走った友人が、東京に帰ってから大きな紙封筒を送ってきた。中を開けると簡単な手紙と、彼が編集して「あっという間に版を重ねた」自信の一冊『自転車ライフを楽しむ! 大人のサイクリングビギナーズ』(自転車博物館サイクルセンター 中村博司他著 八重洲出版刊 定価1300円+税)と、私の住む伊予吉田を中心としたそ5 万分の1の地形図が9枚入っていた。友人は学生の頃、サークルで一度、社会人になって自転車雑誌の取材で二度、南予を走ったことがある。
 愛媛に住む私に、わざわざ東京で地形図をもとめて送ってくれるとは、親切過ぎると思いつつ、早速、自慢の一冊を開いてみた。全く周到な編集てある。オーソドックスに自転車という乗り物の本質を知ることから説き始め、シェイプアップや生活習慣病予防やストレス解消につながる自転車運動について、さらに自転車通勤のメリットとデメリット対策を説き、乗車フォームや正しいペダリング、変速機の使用法から最低限マスターすべきメカ技術まで実践的なテクニックを私の如き中高年ビギナーのために懇切かつ具体的に説明してある。とにかく、自転車運動を毎日の生活の中の楽しみの一つとして始めたいと思われる方には、最適の手引書の一冊と思われるので、ぜひご購読を。
 さて、何故地形図かということである。同書中に、「地図とハンディGPS」の活用というコラムがある。地形図には、道の勾配や広さ、周囲の景観、土地の利用形態、主な建物など、様々な情報が詰め込まれている。しかも、5万分の1地形図にはおよそ、縦が18.5キロ、横が22.5キロの範囲が表示されているから、時速約20キロ程度で計算して、一日の日帰りサイクリングなら4枚の地形図を携行すれば大丈夫と言うことになる。地形図を大いに活用せよ。地形図なくしてのサイクリングは、説明書を読まないでパソコンをいじるのと同じなどと書いてある。友人は、南予は海と山が迫り、景観にすぐれた岬や峠が多い地形である上に、盆地を縫って流れる肱川や四万十上流の広見川などの河川もある。そんなところに住んでいて、なぜ自転車に乗らないのかと言うのである。それで、数年前に彼にすすめられて買ったマウンテンバイクをお蔵入りにしていた私に、地図9枚を奮発してくれたわけである。先ず身近な所からということで、私は同書中の「安全なマイコースをさがす」というのを参考にして、伊予吉田の町中からの一周コースをっくって走ってみた。まず陣屋町の中ほどにある安藤神社からスタートし、横堀橋の手前を右折、国道56号線をスーバーフジのところの横断信号で渡って立間川にかかる橋を対岸に渡って左折、通学路を河口に向かって進む。200メートル先で吉田湾に沿った県道に出る。大きなカーブを繰り返すリアス式の湾に沿って景色を楽しみながら走り、牛川を過ぎ立目という集落から右折、桜の並木のある小さな峠を登り、短い南君トンネルを抜ける。坂を下ると、南君(なぎみ)の集落である。さらに屈曲を繰り返す湾岸を走り、奥南運河を渡る。一旦下って、また湾を一回りすると、小さな船揚場のある港が見えてくる。そこから急坂である。構わず登っていくと道が馬の背になり、左右に海が見える。遠景は右手に戸島、嘉島、日振島や玉津湾、左手には宇和島、鬼ケ城連山。絶景である。なおも急坂を登る。坂の突き当たりで左折して道が下る。一曲がりして、少し下ると道が二手に分かれる。右手の急坂を登る。コース中最大の難所であるが、登れぬ坂ではない。我慢して登ると、あーまだかと思う辺りで、一度勾配が緩む。そこから最後の急坂が始るがたいしたことはない。登り切ったところからは全面がパノラマで広がる。足下には小さな港に停泊する漁船や養殖筏が小さく見え、遠くには宇和島湾を隔てて鬼ケ城連山が青く聳える。右手は戸島、日振の島々。急坂を下ると小島の灯台と小さな砂浜が見えてくる。さらに下ると大良漁港。
集落を過ぎ、再び急坂を登って分岐にもどり、今度は先程の馬の背を一気に下る。サドルの後ろにお尻を突き出して、急ブレーキに備えながら、スピードはくれぐれも抑える。景色がいいし、爽快この上ないからつい、気が緩むがここで転倒したら一巻の終わり。
 下って、奥南運河を又渡り、奥南農協の所まで戻る。そこから県道273号線に左折して登る。急坂ではあるが、長くはない。登り切って後はずっと下り。山下亀三郎縁の筋、東蓮寺から、右に入って川沿いのマラソン道路に入り、吉田中学、御殿内を経て町内に戻る。私がゆっくり走って、一周約一時間半、25キロ程度。途中で写真を撮ったり、大良でじゃこ天を買ったりしていたら2時間。休日の朝にゆっくり出かけるの良いコースである。地形図を見ていると、あらためて南予は実に自転車に適した風土だと思う。国道378号線と国道56号線を結ぶ峠はどれもすばらしい景観である。体力と時間に余裕を持たせて出かければ心にも体にもよい旅が出来る。

Copyright (C) TAKASHI NINOMIYA. All Rights Reserved.
1996-2012