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1999年04月号 掲載 

岩松点描 
 
 

大畑旅館の庭
「廊下へ出てみると、夥しい石を用いて、泉水と、築山と、雪見灯篭の庭がある」(『てんやわんや』)
 獅子文六は「着いたときが年の暮れで、それから旧正月、 春から夏、夏から秋と、移り変わる生活や行事は、私にとって極めて多彩だった。事実、私は都会より田舎の方が、生活が多彩であると、判断せざるをえない。少なくとも、現在の東京なんかには、集団生活の彩らしいものは、一つだってありはしない」と岩松の暮しを回想している。かつての祭の賑わいや街の風景は時代とともに移ったが、岩松の街の魅力は健在である。


朝の岩松川 正面の白い蔵が小西本家

大畑旅館にある
旧東小西家の裏門
「驚いたのは裏門である。淙々たる相生川(※岩松川)の河岸に面し、数株の老松を前景に、……表入口の百倍も立派で威風堂々たる裏門なのである」(獅子文六『てんやわんや』より)


かつての東小西家の表入口があった場所は駐車場になっていた。

西村家(左)と内山商店(右)
「家々の軒は低く、上方風に紅殻を塗った店や、中国地方に見るようなレンジ窓の家が多かった。小さな銀行支店や、2階建ての駐在所などは、古びた洋館だった。やがて、右側に、同じ低い軒下に、塗料の剥げた格子窓が連々と続く家があった」(獅子文六『てんやわんや』より)」


湯引きした鯛の刺身
「鉢盛料理」に欠かせない巻寿司には玉子焼き、そぼろ、かんぴょう、ごま、蒲鉾、ほうれん草が入っている。

六宝飯
獅子文六は随筆「熟す」に「三宝飯」と紹介しているが土地では「六宝」という。
 井上明久の小説『佐保神の別れ』(河出書房新社1998年刊)に「一度、是非遊びにいらつしゃい。文六が原稿を書いた大畑旅館で、前を流れる岩松川を見ながら、六宝っていうおいしい郷土料理をごちそうしてあげるから。こう、鯛の刺身をね、醤油と酒とみりんと胡麻と生玉子を合せたものにまぶして、それを真っ白いアツアツのごはんにのせて食べんの、ウーム……」とある。

 
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