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1997年06月号 掲載

 
コチャパンパ(ポリビア共和国) 
関 洋人 (大洲市在住)

レストラン「エル・ディエンテ」で食べたクイの頭
 クイとは、天竺ネズミの一種でアンデス地方では普通に食用に供されている動物である。姿かたちは大きめのモルモットのようなものと思っていただいたら間違いはない。私はボリビアに来る前から、このクイをぜひ食べてみたいと思っていた。そして、コチャバンバに来て二日目の昼、その機会が訪れた。私とドクトルはラパスの友人たちと合流してコチャバンバ近郊のティキパヤ村にあるレストラン「エル・ディエンテ」に出かけた。「エル・ディエンテ」という店の名は直訳すれば「歯」という意味である。案内してくれた友人たちに由来を聞いてみたが誰も知らなかった。しかし、「エル・ディエンテ」に行けば、クイ料理に間違いなくありつけるとのことであった。
 コチャバンバからティキパヤ村への道はほとんどが石畳だ。一個ずつ石の形を見て、組み合わせを考えながら石を並べて作った道である。手間賃が安いため、アスファルト舗装にするよりずいぶんと安上がりになるのだそうだ。
 石畳の道を、車で三十分走って、レストランに着いた。石造りのなかなか立派な建物である。私たちは広い中庭のテーブルに席を取り、胸高鳴る思いで、ウェイターが差し出したメニューに見入った。あった!クイの揚げもの、クイの姿焼き、たしかにクイ料理がある。驚いたことに、長年ボリビアで暮らしている友人たちもクイを実際に食べるのは初めてだという。私たちはこの店でクイの揚げ物とアヒルの姿焼、干し肉の揚げもの、牛タンの煮込みを食べることにした。クイの揚物は皿の中央に付け出しのイモ、トマトと、タマネギ、香草などのサラダ、パサパサの白米といっしょに盛りつけられている。口を開き歯をむき出した形相はなかなか見応えがあったが、味の方は予想したよりずっと良かった。この旅行中に食べたボリビアの牛肉には、なぜか独特の臭みがあったがクイは淡泊なクセのない味で肉質も柔らかい。月並みな表現だが、鶏肉の笹身のようであった。私は大いに満足し、レストランの名前の通り歯をむき出したクイの頭に何度もかじりついたのである。勘定は、飲物をいれて全部で大体十五ドルだった。ボリビアでは、国民一人当たりの年間平均所得が千ドルに満たないことを思うと、かなりぜいたくな昼食だったわけだ。
(つづく)

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