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2004年01月号 掲載

 
マナウス(ブラジル・アマゾナス州) 
関 洋人 (大洲市在住)

巨大なカブト虫の標本
 セントロから高級住宅地に入る。余談であるが、マナウスの高級住宅地にあるプール付の家は土地も全て含めて五百万円~七百万円が相場だ。普通の家は二百万円といったところ。ある種の感慨を覚えながら高級住宅地を過ぎ、日本からの近年の移住者である橋本氏が開設した「アマゾン自然科学博物館」へ。一月二日の朝であり、我々が今年最初の入館者である。巨大なピラルクー、鎧鯰、そしてカンジルーという小さな肉食ドジョウ。このドジョウは肛門や膣など動物の体にある穴から体内に入り込み内臓を食い荒らすという始末に終えない生き物で、アマゾン流域でもっとも恐れられている魚である。恐ろしいカンジルーの中でもVandellia cirrhoseと呼ばれる種類がもっとも剣呑であるといわれている。

 このカンジルーの恐ろしさに比べれば、体から血でも流していないかぎりは、まず襲われることはないピラーニャへの恐怖などは児戯に等しい。ここには、他にも巨大なヘラクレスカブトムシ、巨大ゴキブリ、巨大バッタなど思わず目を引きつけられるものが数多くある。

 館長の橋本氏は気さくな人で、腰に鍵をたくさんぶら下げてガチャガチャ音をさせながら歩く人だった。たまたま、この旅から帰国した直後の愛媛新聞紙上に『われら地球市民』と銘打った連載記事に橋本氏のことが写真付きで大きく紹介されていた。彼の次の夢は、マナウス近郊の自然の中で伸び伸びと子供を育てる「野生児学校」の開設だという。新聞に載っていた彼の写真の腰にもやはり鍵が一杯ぶら下がっていた。

 午後一時半、後ろ髪を引かれる思いで、四日間滞在したマナウスの町からSC二〇五便でリオに向かって出発。ところが離陸後、機はいつまで経っても上昇せず、アマゾン河上空で低空旋回を繰り返している。同行のA君が「落ちるんやろか?どうせ落ちるんやったら、地面より河の方が衝撃が少なくて助かる確率が高いんかな?」とアホなことを言う。ある程度の高さ以上から落ちれば、水面だってコンクリートと同じだ。しばらくして機内放送。なんのことはない、これは例のネグロ河とソリモンエス河の合流点の奇妙な景観を乗客にじっくりと見せるためのサービスだった。

 ブラジリア経由でリオに向かう途中、マナウスに働きに来ていた兵庫県出身の日本人と結婚したブラジル人女性に話しかけられた。彼女は先に帰国した夫に会うために日本に行くのだという。彼女はいろいろしゃべりたい様子ではあったが、当時は私の語学力が不足していたし、彼女の日本語も今一つであったため、話が長くは続かなかった。

 夜の九時にリオに到着。リオはブラジルでも一番危険な街であるとさんざん吹き込まれていたせいか、機内から空港ビルに入ると、行き交う人々の目つきに棘があるような気がした。いままでの能天気な雰囲気とは違う。これはちょっとヤバイぞと思わず身構え、手荷物を持つ手にも思わず力が入ってしまった。

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