過去の連載記事
同じ年の連載記事
1998年03月号 掲載
第 14 回 和 菓 子
野久保製菓舗 
大洲市新町 
 

「香風」をつくる野久保さん。
 休日の午後、本を読んだり、めずらしく調べものをして長い時間を過ごし、少し頭がボーッとなったときなどに、甘い物が欲しくなる。そんなときには、車を走らせて、肱川の橋を北に渡り、大洲市新町の野久保製菓へ和菓子を買いに行く。季節の和菓子が美味しいのである。そして、どの菓子も見た目が綺麗な上に名前も美しい。たとえば、今日は、「雪どけ」(白あんに緑の色粉をかけたあわゆき)、「こぼれ梅」(きみしぐれ)、「桜草」(ぎゅうひに白あん)、「春の水」(薯蕷饅頭)、「香風」(黒餡をこなしで包み、梅の花の型に押し寒天を被せる。花心には黄色いそぼろが置いてある)。
 さて、買って帰ったお菓子を菓子鉢に盛って、自分の分を一つ選んで菓子皿に取り、机の上に置く。作法は構わず、ポットのお湯でサッと抹茶を点てる。お菓子を食べて抹茶を飲み、仕上に熱いほうじ茶を入れて飲む。すると、なんだかのんびりとした気持ちになって、頭がすっきりとする。読みさしの小説の続きをもう少し読んでみようかなどと言う気がしてくる。

「ひなあられ」もおいしい。生姜味と青海苔をまぶしたのと2種類ある
 野久保製菓の野久保利一さんがつくる和菓子は気取らず、しかも品の良い味わいである。生地が美味しく、餡の甘さはやや抑え目であり、後口がとてもさわやかだ。今日、私が食べた「雪どけ」も、ほんとうにあっさりとした甘さが印象的なお菓子だった。
 生真面目な野久保さんは、作りたてのお菓子を売るということに大層、気をつかっている。余分の作り置きというものをしない。だから、店に行く時間によって十種類ほどの和菓子の品数がふえたり、へったりする。
 私などは、初釜の頃に、ガラスケースの上に置かれたお盆の上に、出来たての花びら餅が並んでいるのを見つけて喜んだり、あるいは、勤め帰りにふと思いついて立ち寄ったとき、ケースの片隅に、娘の大好きなイチゴ大福の一群を発見してホッしたりすることもあるのである。

野久保製菓の和菓子。美しくて、おいしい。
菓子の名前は、定番のものに加え、俳句の季語などから野久保さんが新たに考えられたりもする。

「香風」

 
Copyright (C) T.N. All Rights Reserved.
1997-2012