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2009年05月号 掲載
第 111 回 窪川はおいしい
高知県四万十町(窪川町)
 蕎麦屋「八笑人」 / 毎日遠赤自家焙煎 「淳」 



四万十川沿いの茶畑


松野町遊鶴羽の棚田

十和付近

四万十川の予土線の鉄橋と沈下橋

 連休中に自転車で四万十川に出かけた。広見から棚田の美しい遊鶴羽に峠を越え、松野に出て、江川崎から十和、大正と道の駅で休みながらペダルを漕いだ。道の駅はいわゆる「千円効果」で大変な混雑だった。食べものも売りきれ、清流の前で飲み水に事欠く遠来の人たちを気の毒にも思ったが、トイレや洗面所などの給水能力を遥かに超える人数が集中するのだからいたしかたのないことではあった。いっそ、ずっとただにしたらどうかとも思うが、自転車には関係の無い話しではある。四万十は流域が広い。道自体の方はいつもにくらべて遠くの車が目立つという程度であった。
 江川崎から先に足を延ばしたのは、子供たちが小さい頃にキャンプに出かけて以来だったが、知らぬ間に、四万十トンネルだとか、江川トンネルだとか、蛇行する川をくし刺しにする大きなトンネルがいくつか出来ていたので、トンネルをはずして走ると車に全く出会わぬことも多かった。トンネルの入り口から昔の道に入り川から離れずに走ると、最近の土木構造物に較べると、はかなく楚々として、自然にとけ込んで見える予土線の鉄道橋などを間近に眺めたり、川沿いの茶畑、田植えが近づいた棚田の風景などを楽しむこともできる。心地よい5月の風を受けながら登ったり下ったりの道を行く。川沿いの道は勾配がそれほどきつくはないから、私のような足弱には好都合でもある。落石に気をつけ、スピードを抑えて走れば危険もない。


蕎麦屋「八笑人」
営業時間 午前11時30分から売り切れまで
     (定休日毎週火曜日、金曜日は夜も営業PM6:00~)
四万十町(窪川町)茂串
0880-22-3186

辛味おろし蕎麦

ざるそば大盛りと玉子焼き
 十和の道の駅から約50キロ弱、2時間ほどで窪川に着く。駅前を通り、八十八ヶ所の札所岩本寺へ。お参りして参道を戻ると蔦の絡まった建物が目に入った。「Young若者の城(カスバ)」というすごい名前の看板。しかし、それは2階。1階は右手に入り口があって「純喫茶 淳」。自家焙煎の珈琲店であった。建物はそうとうに年季が入っていて、閉店しているのかなと思うほどであったが、そうではなかった。しかも、ふと向い側を見るとパン屋さんがあり、喫茶田園という、これまた時代がかった喫茶店がある。タイムスリップしたようなこの一角がとても魅力的に思えて来た。
 昼を食べようと思って、周りに食事のできそうな所を探す。取り合えず、左の方へ行くと新しいのれんのかかった蕎麦屋さんがあった。「八笑人」。自転車を止め、中に入ると誰もいない。声を掛けると店の人がすぐに出てこられた。辛味おろしそばの大盛りを注文。これがおいしかった。福井と常陸の蕎麦粉を使っているそうだ。ご主人は東京の葛飾で修業しで1年半ほど前に店を開いたという。盛りもすばらしく、わたしのようなそば好きにはありがたい。汁の味も甘過ぎず、大根の辛さもそばにとてもあっている。おろしをかきまぜて、またたく間に食べ終えると、店のご夫婦があまりの早さに驚かれ「豪快ですね」と喜んでくれた。店を出る時に自転車の水筒に氷水を入れましょうかと声を掛けてもらう。まだ水はたっぷりあったので「ありがとうございます。でもまだ沢山入ってるから」と言うとご主人が「焼酎を入れてあげてもええのやけど」とにっこり返された。私は窪川がいっぺんに大好きになった。


毎日遠赤自家焙煎 「淳」
四万十町(窪川町)茂串6
0880-22-0080

コーヒーとミックスサンドイッチ
 さて、喫茶店である。連休が明けた次の土曜日にもう一度出かけた。このコーヒーもおいしかったのである。前回、ちょうど店から出てきたご夫人ふたりが「苦かったね」と顔を見あわせてつぶやいたのが聞こえてきたが、実に立派な味わいだった。白髪のおじいさんが丁寧に点ててくれる。閉店しているどころか、客足が途絶えず一人で席を占領しているのが落ち着かないくらいだ。急いで飲んで、早く席を空けようとしたら、「お茶を入れるから、ゆっくりして行ってください」と声がかかった。
 窪川はおいしい。そばもコーヒーも、人気も、町の雰囲気も。また来よう。
蕎麦屋さんは売り切れでおしまい。火曜日が休みである。


岩本寺本堂


仁王門


 
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