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1999年07月号 掲載
第 29 回 うまい、体にいい、安く飲める「単身赴任者の通う店」 
食楽酒粋(しょくらくしゅすい) 夢二 
松山市歩行(かち)町1-10-2 
TEL089-943-1714  17時~23時(日曜・祝祭日休) 



ピーマンの焼肉炒めをよそう夢二のママ、久保美穂さん。知る人ぞ知る和服が似合う伊予松山の美人ママだ。
松山市には全国に営業展開している民間企業の支店や営業所が多く集まっている。松山は単身赴任のサラリーマンが多く暮らしている町なのである。
 六月の半ば過ぎ、松山市歩行町にある「夢二」のカウンターでたまたま、隣りに腰掛けた常連客の一人Aさんも単身赴任のサラリーマン。東京本社で四国営業所を松山に置く、ある製薬会社の営業所長だった。
 生ビールをぐっと飲みほしたAさんが、「ぼくはね、O157以来、生野菜は食べないんですよ」と唐突に言った。O157など、とんと失念していた私がぽかんとしていると、Aさんは「この店はほら、じゃが芋でも、茄子でも、ピーマンでも煮たのとか、茹でたのとか、炒めたのとか、焼いたのとか、揚げたのとか加熱調理した野菜の種類が豊富でしょう」とカウンターの向うに並ぶ大皿の料理を指差した。なるほど、鯵の南蛮漬けや、出汁巻き玉子、こんにゃくともつの味噌煮、塩鯖などの皿が並ぶ中に、いかと大根煮、新ジャガコロッケ、焼き茄子、ピーマン焼肉炒め、肉じゃが、ほうれん草のごま和えなどなど、野菜を使った料理のメニューがたくさんある。Aさんは「うちに帰っても、これだけ野菜を使った料理は食べられないよ。それにうまいし、値段も手頃。僕なんかはほとんど毎日通うからね。値段も大事ですよ。ほんと。
 単身赴任は一人暮らしで羽を伸ばして結構懐具合が豊かだとか思うかもしれないけど実際は二重生活で大変なんです…」単身赴任の現状について、わが土木建築業界との差異などについて言葉をかわすうちに、やがて話題はAさんの故郷長野県に移った。私は、かつて松本駅から見た常念岳の美しさについて語り、Aさんは長野県民は子どもまで、みんな県歌「信濃の国」を三番まで歌えることなどを語った。私が「長野の人はほんとうに気まじめですよね。論理的で、思弁的で…」と言うと、Aさんは「いゃあ、暗いんだよ。暗いの」と断定的に言って笑った。安曇野の山葵田や碌山美術館の話しなどをしていたら、Aさんの部下の人たちがグルーブで来店してきたのでAさんは畳の席に移って行った。奥の方の席では数人の若い女性たちのグルーブが楽しそうに話しながら、飲んで食べている。  一人になった私は、美人のママさんと少し話した。「夢二」と言う店の名は「大正浪漫」が大好きなので付けたそうだ。そういえば、店の内装や照明などにも過ぎぬ程度に「大正浪漫」の雰囲気が演出されている。
 「夢二」は、懐具合をそれほど気にせずに、旬と鮮度を大切にした、おいしい家庭料理が味わえる店である。そしてママさんたち店の人たちのさりげない気配りでうまいビールと地酒が飲める有難い店でもある。  私は仕上げに冷やしソーメンをいただいて店を出た。

肉じゃが

お通しはざる豆腐

焼き茄子、酢の物

てきぱきと気持ちのよい中ちゃんは、来月の「娘さんこんにちは」に登場です

 
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