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1999年12月号 掲載
第 33 回 五色練羊羹 七福堂 
七福堂 
愛媛県大洲市本町2丁目 
TEL0893-24-2248 

柚子羊羹
 創業は江戸の天保年間、大洲市本町七福堂の大島羊羹をきらさない。黒砂糖の素朴な味わいと、ほどよい甘さ、きめの細かい舌触りが無類のおいしさだと思う。
 疲れたときなどに熱いほうじ茶をいれてこの大島羊羹を一切れ頬張ると、頭がすっきりして元気が出てくる。
 七福堂の羊羹は五色羊羹といって、私の好きな黒砂糖の大島羊羹のほかに、柚子、薄茶、栗、小倉の四種類がある。私は柚子と大島をよく食べる。友人には栗の好きな者もいる。小倉の淡白な甘さがいいという者もいる。結局どれもおいしいのである。
 七福堂の庭には昔から滾々とおいしい水が湧き出る井戸がある。すぐ後ろを流れる肱川に大きなコンクリートの護岸が出来たときに少し井戸の機嫌が悪くなったが、打ち抜いて深い井戸を掘ったら、また元通りの水がもどってきたという。七福堂では、そのおいしい水をつかって小豆を晒す。柚子を煮る。色粉や保存料は一切使わない。
 昔は馬の毛で編んだざるであったというが、今は金属製の細かいざるで、何度も小豆を篩い羊羹が出来上がるには二日かかる。
 いつもかわらぬ、後口のさっぱりした羊羹の味はこうしてつくられていた。
 羊羹には有名な虎屋のものや松山には名高い薄墨もあるが、私は断然、七福堂を好む。




店内に掲げられた「福内鬼外」(福は内、鬼は外)の扁額は、富岡鉄斎の筆で新築のときのお祝。 床の間の七福神の絵は昔、油屋に長逗留していた画家が「七福堂主人に」と贈ったもの。

 
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