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1999年04月号 掲載
第 26 回「石畳(いしだたみ)の宿」のごちそう 
石畳の宿 
愛媛県内子町 
TEL0893-44-5730 要予約 ※昼食は7名以上で
 天気は降ったり止んだりのくもり空。「おとうさん、きょう泊まるとこは古くて汚いの」「うん、無茶苦茶古いが、汚くはない。でも、山の中だから、雀のような蛾や百足がいるかもしれん」などと子供に話しながら「石畳の宿」についた。「うそつき、うちより百倍きれいじゃないか」とわめく愚息にかまわず、玄関で声を掛けると、感じのよい地元の主婦の方が出てこられ「空いているので好きな部屋をお使いください」と言われる。折角だから子供に選ばせた。生意気にも、一階の広い座敷ではなく、部屋に入るときは体をかがめて入る、物置に使われていた小屋裏(屋根裏)を改修した二階の部屋がいいという。気持のよい風呂をいただき、しばらくしてから晩ご飯になった。きわめて手のかかった煮もの、炉でじつくりと焼き上げたアメノウオの塩焼き、山菜の天ぷら、ちらし寿司などいっぱいのごちそうが列んだ。普段は野菜の煮物などには目も向けぬ息子が神妙に食べ、「おいしい」と言う。夜もふけて、床についた愚息が木組の見える天井をしげしげと見つめながら「こんな部屋が大好きなんだよ」と満足な表情をして言った。よほどこの部屋と宿が気に入った様子であった。浴室は自動給湯の近代的なもの。トイレは洋式で洗浄用の温水が出る設備までついていた。
石畳の水車小屋(右)。村おこしのために地元の人々がお金を出し合って1993年に建てた。 左は弓削神社の屋根付橋。


「ジェラテリアだんだん」を運営する瀬戸町の田中智恵美さん。


新鮮な生玉子。朝食もたっぷり。
手のかかった煮物(右)

石畳の宿 


 先日、子供を連れ、久しぶりに双海町から山を越えて、愛媛県内子町の「石畳の宿」に出かけた。一九九四年三月に完成した「石畳の宿」は、内子町が進める村並み保存の西の拠点石畳地区の村おこしのために、廃墟となっていた農家を解体移築し、宿泊施設として再生したものである。まるで宣伝もしないのに全国から訪れる人が後を断たない。そして、訪れた人はみな満足して帰り、知らず知らずのうちにリピーターがふえている。このような公営の宿では稀有のことだろうが、すでに黒字経営とのことである。


 設計を手がけた建築家の吉田桂二が「村並み保存の意味には、兼業農家がふえて危機的状況にある農村を、自然の美しさをとどめている環境のよさとして残しながら、ドイツなどで盛んになっている、アグリカルチャルツーリズムの手法を借りて、元気を取り戻させようというねらいが込められている」(『住宅建築』九六年十一月号「町並みと村並みを結ぶ町づくり)と書いている。「石畳の宿」は、まさに意図されたとおりの役割を果たしているのである。
 
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