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2003年01月号 掲載
第 60 回 石手寺の焼き餅 
 
愛媛県松山市石手寺 
 

焼き餅と抹茶
 正月の五日、石手寺に詣でた帰りに、参道脇の「五十一番食堂」で小憩をとった。大きな角火鉢を囲んだ席の一つに腰を下ろし、抹茶と焼き餅をいただく。ヨモギ餅と白い餅が二枚、漉し餡である。香ばしく、ほんのりと温かい餅をほおばり抹茶をすすった。ガラスの引戸越しに、参道を行き交う初詣の人の流れが見える。店先で焼き餅を丸めていた若い娘さんが戻ってきて、番茶を入れてくれた。奥の席では、おでんをつまみに一人で飲んでいる客が初老のご主人と話し込んでいる。カウンターの中の若い男の人はどことなくご主人に風貌が似ているから息子さんであろうか。正月のせいか白いネクタイを締めている。おでんの鍋は先ほどから、美味しそうな湯気を立てている。私は、帰りに道後温泉に寄るつもりであったから、おでんで一杯の楽しみは後にとっておかねばならないのである。ゆったりとした、正月らしい気分につつまれて店を出た。  石手寺の茶店や食堂はどのお店もそれぞれである。私は空いているところに入ることにしている。焼き餅はどこの店で食べても美味しいと思うが、今年の「五十一番食堂」は店の正月らしい雰囲気とともに格別だった。


石手寺参道脇の「五十一番食堂」

正月の石手寺参道

 
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