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2000年02月号 掲載 
長英の隠れた家がギャラリーと喫茶店に
東宇和郡宇和町 池田屋酒店卯之町四丁目
電話 0894-62-0223
 卯之町、中町(なかのまち、あるいはなかんちょうとも呼ぶ)の町並み入口近くに、かつて高野長英が潜伏した池田屋酒店渡辺家がある。渡辺家は、長英が隠れた幕末の頃は里正(さとまさ)と呼ばれる庄屋の屋敷であったが、今も豪壮な庄屋門をはじめ建物のほとんどが当時の面影をよく伝えている。長英が長崎鳴滝シーボルト塾の同窓、二宮敬作と夜々、国事を語りながら、酒を酌み交わしたという隠し部屋もそのまままだ。
 先頃、建物が修復されて、小さなギャラリーと喫茶店を開業したということを聞き、再訪してみた。
 店の前に立つと、長年の風雨に晒されて落剥(らくはく)した漆喰や、いたんでいた建具が美しく修復されていた。もとの雰囲気が損なわれていないのがうれしい。真西に向いた店の入口には、屋号を染め抜いた真新しい茶木綿の日除(ひよけ)がかけられている。店に入ると、酒類の売場の左手に広々としたギャラリーと喫茶のスペースがあった。右側に喫茶のカウンターがあり、左手奥がギャラリーになっている。吹き抜けの頭上には、星霜に耐えたこの家の風格を感じさせる一抱えも二抱えもある大きな梁が交差している。落ち着いた気持のよい場所である。
 カウンターにすわり、コーヒーをいただいた。あっさりしたシフォン・ケーキがついてくる。コーヒー(水は名水百選の観音水)もケーキもとてもおいしい。四百円。中二階には座敷きもあり、思わず長居をしてしまいそうな場所だ。
 近日中には、高野長英がこもった隠し部屋も見学ができるようになるし、目と鼻の先にある中町の町並みのすぐ奥には、重要文化財の明治初期洋風建築の小学校、開明学校もある。二宮敬作の墓がある光教寺の庭園もすばらしい。宇和の町並み散策のときには、ぜひお出かけください。 おすすめ
 ◆ 米吟醸玉川 4合瓶 一、七三〇円
 ◆ イツヴュルツブルグのシーボルトワイン 二、五〇〇円


修復された池田屋酒店



鳥居門と呼ばれる庄屋門。
この門から、長英の隠し部屋に上がる秘密の通路がある。 吉村昭『長英逃亡』下(新潮文庫)の記述参照。






ギャラリーには、宇和養護学校の生徒たちの美術作品が定期的に展示される

喫茶
●営業時間/9:00―18:00 ●定休日/第2・第4水曜日

 
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