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2005年08月号 掲載 

鬼北町 節安(せっつやす)のわさび 
 
愛媛県鬼北町 (旧日吉村大字父野川上)

節安のわさび田 伊豆天城地方などと同じく傾斜地を段々にして栽培している。
節安の澄んだ豊富な水が美味しいわさびをつくる。花は初夏。
 旧北宇和郡日吉村の最奥地に古くから、十六戸で続いた節安(せっつやす)という集落があった。深山幽谷の趣が漂う自然に囲まれ、明治以降も林業を中心にした暮らしが営まれて来たが、昭和四十八年に記録的豪雪や、豪雨の被害に遭い、ついに廃村になったという。
 ある時、山好きの知人が、その節安の山の深さと渓流の清らかさについて聞かせてくれたことがある。山を歩いていたら、天然のわさびが群生している湿原もあったが今はどうなっているだろうかという。「ふれあい節安の森」という体験学習施設が出来、わさび田があると、鬼北町のホームページにあったので、一度出かけてみることにした。

わさび田の上部から渓流の水を引いている。

節安に行く途中の廃校になった小学校
 七月の終わり、道の駅の「日吉夢産地」の手前から広見川にかかる橋を右に渡り谷沿いの一本道をどんどん奥に走った。「節安そうめん流し」の小さな幟が道筋に立っているので迷うことはない。山間の美しい棚田や集落を抜け、廃校になった小学校を過ぎると道はいよいよ細くなる。道が渓流に近づき、空が木々に覆われたかと思うと、ログハウスや水車小屋のある体験施設の入口に着いた。ずいぶん山奥に入ったような気がしたが実際は車で三十分ほど走っただけである。そうめん流しのおばさんに天然のわさびのことをたずねると、天然のわさびは山に生えているが、わさび田はすぐ先にあるという。教えられた通り、山道を少し登ると、渓流沿いに黒いネットをかぶせたわさび田がつくられていた。澄んだ谷川の水を引いた傾斜地を段々にしたわさび田に、ハート形のわさびの葉がいっぱい生えている。薄暗く、湿気があって、少しひんやりした空気が伝わってくる。天城という札が掛かっていたから、おそらく静岡から取り寄せた品種なのだろう。このわさび田の作り方も、わさび栽培の先進地域にならったものにちがいない。本わさびは日本原産、四国でも冷涼な山間の渓谷や砂礫地などに自生する。節安の渓流にも天然のわさびがあると思われるが、天然のは根が細いそうだし、大量に栽培するのには適さないだろう。

そうめん流しには、わさびが滑らかに下ろせる鮫皮のおろし器があった。
わさびは長さ10cmくらいのが500円くらい。
 そうめん流しの小屋に戻り、鮫皮のおろし器でのの字を書きながらわさびをおろし、そうめんを食べた。節安の澄んだ空気と水で育ったわさび、柚子、ミョウガ、紫蘇、葱、生姜とりどりの薬味で食べるそうめんのおいしさは格別だった。
●連絡先 TEL:(0895)-44-2211(鬼北町日吉支所)
TEL:(0895)-44-2990(節安ふれあいの森)
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