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1998年03月号 掲載 
『手紙、栞を添えて』
 
辻邦夫 水村 美苗 著
 (朝日新聞社刊/定価1,800円+税) 


 『廻廊にて』『夏の砦』から『西行花伝』まで三十数年にわたり次々と傑作小説を書き続けている辻邦生と、漱石に関心を持つ者なら誰もが一度は試みたいと願う未完の遺作『明暗』の完結を見事にやってのけた『続明暗』の作者・水村美苗の二人が、一年四ヵ月にわたって朝日新聞紙上で交わした往復書簡をまとめた本書は、文学と人生、西欧と日本、過去と現在、自然と社会、男と女などさまざまなテーマが、偏愛する数々の名作を引用しつつ、まるで連句のように熱っぽく、連歌のように楽しげな様子で、明晰な美しい文章のタピスリーとなって織りあげられてゆく。そして、近年の交信メディアの発達によってその重要性を失いつつある “手紙”という形式が、本当はどんなに豊かで深い魅力に満ちているかを、実に鮮やかに納得させてくれる。
 さあ、本書を読み終わったら、誰か大切な人に宛てて、この古くて、けれど決して古びることのない“手紙”を書いて出そう。

井上 明久(作家)

 
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