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2004年05月号 掲載 
小池邦夫『男の絵手紙』のすすめ
 
小池邦夫 著


 去る三月十六日の夕べ、松山の愛媛県美術館で、当地出身の絵手紙作家・小池邦夫さんの講演会が開催された。当日、僕は東京から入松し、会場に駆けつけた。
 講演の題目は「棟方志功と私」で、始まるや否や小池さんはかけていた眼鏡をはずし、紙袋の中から今日のために買ってきたという棟方志功ばりの太い黒縁の眼鏡をとり出してそれをかけ、頭には鉢巻きに見立てて細い紙を巻きつけた。それですっかり棟方志功になりきった小池さんは、身ぶり手ぶりよろしく、棟方芸術の偉大さを説いて熱弁をふるった。二時間がアッという間にすぎたほどの充実した講演で、終了後にいつまでも続いた聴衆の長い拍手が印象的だった。
 世評高い板画もさることながら、とりわけ、肉筆画と手紙に棟方志功のより本質的な芸術性を評価した点は、いかにも絵手紙作家・小池邦夫ならではの鋭い指摘で、そこから新しい棟方志功像が浮かび上がってくるように感じられた。
 ところで、小池邦夫さんの新刊『男の絵手紙』(中央公論新社刊)は、これまでにない画期的な内容のものである。というのも、絵手紙愛好家の九十パーセント以上が女性であると言われる中、男性たちに向かって、「男よ、手紙を書こうじゃないか」と熱いメッセージを投げかけ、仕事において、生活において、社交において、手紙というものがいかに有効で楽しいものかを、わかりやすく語りかけているからである。

井上 明久 (作家)

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