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2000年03月号 掲載
第 35 回 『がんばっていきまっしょい』の鍋焼きうどん 
鍋焼きうどん ことり 
松山市湊町3-7-2 
TEL089-921-3003 水曜定休 

なつかしい味と雰囲気の店内。
映画『がんばっていきまっしょい』
のポスターも貼ってあった。

「ことり」のご主人
森田史之(たかゆき)さん
 松山を舞台にした評判の映画『がんばっていきまっしょい』をビデオで見た。とてもいい映画だったが、その中に主人公の女子高校生が、アルマイト鍋の鍋焼きうどんを食べる印象深いシーンがあった。華奢でかわいらしい女の子が気持ちのよい食欲であっという間に一杯を平らげ、「おかわり」を注文する。店の人も自然な雰囲気ですぐに御かわりを持ってくる。
 子供の頃から松山で育った人なら、すぐに映画のうどん屋が湊町の「ことり」だと気がつくはずである。私も小さい頃に母と映画を見に行った帰りには必ず「ことり」で鍋焼きうどんといなり寿司いうのがお決まりのコースだった。すっかりなつかしくなって久しぶりに銀天街の裏の路地にある「ことり」に出かけてみた。相変わらずの繁盛である。
 厨房をのぞくと、横一列のガスの五徳の上に五個のアルマイト鍋がずらりと並んでいる。メニューは鍋焼きうどん四百三十円といなり寿司二百円(二個)だけ。注文してからがとにかく早い。 うす味だが出汁のきいたおつゆにやわらかめの麺。油揚げのきざんだのと玉子焼きに牛肉のこま切れ、そしてナルトが一枚浮かんでいる。 なつかしい、昔に変わらない味だった。一気に食べ終え、女高生に負けてはならじとおかわりを一杯したほかに、いなり寿司を二ついただいた。
 店を出るときに、ご主人に映画の話を聞いたら、カメラの場所と主人公の坐った椅子の場所を教えてくれた。それから、いままでに、いちばんたくさんおかわりしたのはお母さんと娘さんの二人連れで、五杯を平らげたということも話してくれた。高校生なら、女の子でも、いなり寿司を頬張った上に平気でおかわりの鍋焼きうどんを食べていくそうだ。
 昭和二十四年に創業してもう五十年以上。買物やなにかで町に出て、近くを通りかかるとちょっと、鍋焼きでも食べようかという気に自然となってくるような、この店の気軽でほどよい味と雰囲気が松山の人の生活に欠かせぬものとなっている。そう感じた。









湊町伊予銀行湊支店の脇の路地を入ったところにある、鍋焼きうどん「ことり」


 
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