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2004年11月号 掲載
第 72 回 紅葉鯛の鯛飯
海食浜勝 
今治市大浜 
 TEL:0898-32-6105 

炊きあがった釜を持つ海食浜勝の山本毅さん。
写真の鯛飯は要予約。時価。
 秋の鯛を紅葉鯛というらしい。春の桜鯛に対して、色は少し翳りがあり、姿もやや小振りである。しかし、脂がのって、春の鯛に比べ、一際味の深みを増した感があり、紅葉鯛の名に恥じぬそうだ。
 来島海峡に面した大浜の浜勝にたのんで、その紅葉鯛で、「鯛飯」を炊いてもらった。鯛の大きさは一、五キロ。このくらいのものが一番味がよいという。鯛飯と言うと、最近は、宇和島の方で、刺身に生玉子と出汁と醤油、味醂、摺りゴマ、葱などの薬味をあわせて熱々のご飯に載せて食べるのものが人気である。しかし、南予で育った私たちが子供の頃は、あまりその鯛飯というのは有名でなかった。日向飯といって、やはり生玉子や酒や醤油と薬味のタレをつくり、鯛にかぎらず、鯵とかヨコなど鮮度のよい刺身にあわせてご飯に掛けて食べていた。混ぜ合わせる調味料や薬味の数で六宝などと呼ぶところもある。詳しいことは知らないが、いずれにせよ、漁師の料理が陸に上がったものには違いがない。
 鯛をご飯に載せて炊きあげる「鯛飯」もたまには食卓に上った。南予出身の私でさえ、鯛飯というと、今でもそちらが先に浮かぶくらいである。南予で鯛の名を冠した郷土料理と言えば、何をおいても、祭りや祝い事に欠かせない「鯛そうめん」が他を圧しているせいもあるだろう。
 紅葉鯛の「鯛飯」にもどる。こちらの「鯛飯」も正真正銘、漁師の料理である。沖に出て、鯛を釣り上げ、海の水で米を研ぎ、真水で水加減をして、薄口醤油や濃口醤油、味醂、酒などを適当に按配して加え、「今治揚げ」(カラアゲという)を鯛のまわりに敷き詰めて炊きあげる。今も大浜の漁協に予約すれば(TEL 0898-23-3737 ニイサン・ミンナミンナと覚える)鯛を釣り、鯛飯を船で食べる釣り船を出してくれると聞いた。浜勝は料理屋さんだから、少し手をかけるが基本は同じだ。陸だから、真水で米を研ぎ、塩、薄口醤油などをあわせて水加減し、活け締めした鯛にさっと湯を通して生臭さを取って、まわりにカラアゲを敷き詰めてガス釜で炊きあげる。
 炊きあがったらご飯の上にのった鯛の身をほぐし、小骨を丁寧にとって、お椀につぎ分けて食べる。これは圧倒的においしい。保証する。散々食べて残ったら、翌朝はわさびをのせて、吸い口加減の出汁をとってかけ、鯛茶漬けにしてもよい。ご家庭でするとき、鯛の鮮度が落ちるときはゴボウと人参を千に切って加えるとよい。塩や醤油の味加減はそれぞれのご家庭のお好み次第である。
 
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