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2002年04月号 掲載
第 54 回  美しい点心『豫園』 
豫園 
松山市朝生田町5丁目8-15 
TEL089-934-7311 営業時間 午前11時~午後3時・午後5時~午後9時

蒸籠に入れられるのを待つ蒸餃子。
チューリップ型の美しい形
 中国人が作って食べされてくれる美味しい点心の店があると聞いて出かけてみた。松山市の環状線に面した朝生田町のダイエーの裏手、川の土手のすぐ下にある「豫園」という店である。  店は左側がショーウィンドウのようになっていて、点心の皮をこねたり打ったり、具をつめたりするのが外から見える。店内は、見るからに掃除の行き届いた清潔な調理場に面した五席のカウンターと四人掛けのテーブル席が三卓。

清潔な調理場。

ラーメン450円美しい貝のようなエビ餃子。

チューリップ型の蒸し餃子。

小籠包。スープをこぼさずに頬張りたい。

焼餃子はこんがりと焼けていて、しかもジューシーだ。

点心の店、「豫園」。テイクアウトもできる。駐車場は店の奧。
 カウンターの席に腰を下ろし、壁のメニューを見て、焼餃子と小籠包、エビ餃子を一つずつ頼んだ。調理場を見ると、注文を受けた二人の娘さんが、湯気を噴き出している大きな竹で編んだ蒸籠に点心の入った小さな蒸籠を入れたり、白い煙を上げている鉄板に餃子を並べたりと、甲斐甲斐しく立ち働いている。
 最初にエビ餃子が出てきた。蒸籠に敷いた青いレタスの上に置かれたエビ餃子の形は、ちょっと真珠の貝殻のようで、白く透き通った皮の表面には何本かの美しく細やかな筋が付けられている。その優雅な姿を見ただけでうれしくなった。湯気が立つあつあつを口に入れてみると、皮に包まれた淡い味付けのエビの摺り身がなんとも言いようがないくらい美味しい。続いて小籠包。これは皮に包まれた肉のスープをこぼさずに口に運ぶのが食べ方のコツだそうである。カウンターに貼ってある食べ方を指南した写真入りの紙を見ながらぱくついた。これもまた旨い。ポットで供される熱いウーロン茶を飲んで一息ついていたら、焼餃子。焼餃子は、こんがりした焼色を見せて皿に並べる店がふつうだが、「豫園」では、繊細な手仕事を見せるためであろうか、餃子の美しい筋が付けられた白い側を上にして皿に載せている。少し大きめで、堂々とした姿だ。箸で裏返すと見事な焼色がついていた。具はキャベツと韮と豚肉が主。頬張ると、腰がある皮に包み込まれた肉汁の旨味が口に広がるのは小籠包と同じだ。ことわるまでもなく旨い。
 毛沢東の生きていた頃に出た本で、広大な中国の食文化を地域で大まかに分ける方法を読んだことがある。まず、四分法。北部系(北京菜、山東菜、河南菜、山西菜)、西部系(湖北菜、湖南菜、貴州菜、雲南菜)東部系(上海菜、揚州菜、京蘇菜、無錫菜、杭州菜、寧波菜、安徽菜、江西菜)南部系(広東菜、潮州菜、東江菜、福建菜)の四つだ。そして、さらに、大胆にも北の〈ギョーザ圏〉と南の〈シューマイ圏〉の二つに分けるというやり方が紹介してあった。四川だけが混淆地域だということだが、大体は南北でうまく二つに分けられるという。(『茶館/中国の風土と世界像』竹内実著昭和四十九年大修館書店刊)
 それぞれの地域の料理の実際を大まかにさえも知らぬ私がこんなことを言うのは、暢気で無責任な話になるが、「豫園」のおいしい点心を食べていて、新しい中国の若い人たちがそれぞれの地域の食文化を換骨奪胎して新しい「中国料理」を作り始めたのじゃなかろうかなどということをふと思ったりした。
 
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