児島に来て一年間の予定の一人暮らしを始めた。そしてすぐに、食事に行き詰まった。１人で炊事をするとつくり過ぎる。スーパーのお総菜も、外食の繰り返しもわびしい。気をつかう。結局、居心地の良い店に繰り返し通うことになった。仕事場からの帰り道に、若い夫婦が切り盛りする小さなイタリア料理屋がある。ご主人はイタリアで修業してきた人だという。控え目な押しつけがましいところのみじんもない人柄で、カウンターにすわって食べていても気が張らない。素材もよく、料理の風味はしっかりしているが、塩の使い方などが、からだにやさしい感じがする。たいがいは、新鮮な魚介や野菜が盛りだくさんのサラダとスパゲティを一皿注文する。時々大盛りにしてもらうこともある。地物の魚のフリッターもおいしいし、肉料理もうまい。
　たまに、黒板にチョークで書かれたメニューを見て迷っていると、近くの高校の先輩がやっているおいしい和食の店を教えてくれたりする。先日、地元のテレビが取材に来て、渡蟹のスパゲッティが紹介された。ご主人はテレビでもやっぱり控え目で、好きな食べものを聞かれると「えっ、普通のもの、ラーメンとかです」とコチコチになって答えていた。その週は、大忙しのようであった。