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2012年05月号 掲載
第 122 回 倉敷堤窯の湯呑み
 
 融民芸 086-424-8722 
  




融民芸 086-424-8722

倉敷堤窯でお茶をいただく

倉敷堤窯の武内真木さんを友人と訪ねる

倉敷西中の木造校舎。昭和10年代の倉敷実業学校の建物

田舎に帰って倉敷堤窯の湯呑みでお茶を飲む

倉敷の町並み。美観地区の裏手
 高梁川のほとり、倉敷堤窯の武内真木さんがつくる焼物が好きだ。倉敷美観地区に近い、鶴形山にある阿知神社の石段を降りたところ、駅から、美観地区に向かって歩き、えびす通りのアーケードが尽きてすぐにある「融民芸」でもとめることができる。「融民芸」は開店して40年以上、全国から店主の小林さんが産地に赴いて自分の眼で見て、納得したものを集めて売っておられる。倉敷のものも倉敷硝子から焼もの、和紙、緞通まですべて揃う。私は西条市の愛媛民芸館の前館長を務められた岡崎正樹氏に教えていただいた。看板の字は外村吉之助が書いたものだそうである。
 はじめての土地、倉敷児島に暮らした一年間、倉敷堤窯の食器にずいぶんお世話になった。倉敷の仕事が終り、帰郷して荷をほどきながら、堤窯の湯呑みでお茶を飲んでいたら、いつもは無頓着な家人が「この湯呑みすごくお茶が飲みやすい」と言い出した。
 食器は、皿も鉢も、時代の流行と逆にすべてが重く、どっしりとしている。色は多彩ではなく、模様にはけれん味のかけらもない。多くの焼物の中で見ていると控え目な存在となるが、自宅に持ち帰って使いはじめると、押しつけがましさのない強さ、あたたかさ、質朴なあじわいが、にじみ出してくる。湯呑みも茶碗も、はっきりわかるほど、口あたりがやさしく、手に馴染む。
 地元の土から粘土をつくり、成形し、乾かし、釉薬をかけて焼き上がるまで、丹精をこめた手仕事の積み重ねが生きているせいにちがいない。毎日、そんなことをいちいち思って、お茶を飲むわけではないが、毎日同じ湯呑みに手が伸びる。
 倉敷は、愛媛から遠いようで思ったより近かった。南予の私の家からでも高速道路で行けば苦にならぬ距離である。倉敷堤窯のある酒津には美しい高梁川の疎水があり、緑の豊かな公園もある。水辺には朝早くからやっている喫茶店もあった。児島虎次郎のアトリエがあった大原家の別荘無為村荘もある。そのうちに又出かけて見たい。
 
 
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