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2002年02月号 掲載
第 52 回 花びら餅 
野久保菓子補 
大洲市若宮 
TEL0893-24-2031 

花びら餅
 この数年、一月の成人式の頃になると、花びら餅を買いに大洲の菓子舗に走る。円く薄くのばした求肥の餅を二つ折りして半円形にした中に、白味噌仕立ての餡、そして牛蒡と人参を砂糖の蜜に漬けたのが入っている。いわれを店の人に訊くと「京都のお雑煮みたいなもんですよ。入ってるものが同じでしょ。白味噌とお餅、牛蒡と人参」。広辞苑を引くと宮廷で正月の祝いに用いた御焼餅に因むものという。
 私が花びら餅の味を知ったのは、前の職場の同僚のN子さんというベテラン女子社員が若い女子社員を集めて開いていた裏千家の茶道教室におつき合いで出ていたときのことだった。みんなはきちんと週に一度の集まりだったが、私は時間があるとき、気が向いたときにという、半分幽霊のようなN子さんの弟子だった。たまたま、顔を出したのか、N子さんから、初釜のまねごとをするから出て来なさいよと誘われたのか判然としないが、その集まりでN子さんがいつにない「これおいしいわよ」という一言を添えて花びら餅を出してくれたのであった。

この店はお餅も羽二重餅も鶯餅も、イチゴ大福もおいしい。
 私は、初めて見たそのお菓子の白くてかざりのない姿を美しいと感じ求肥のお餅の間から牛蒡がのぞいているところなどもいいなと思った。そして、食べてみたらとてもおいしかった。その花びら餅は、今からすると、少し気取った風の、少し甘みを抑えた味で人参は入っていなかったが、とにかく一度食べて、心に残るお菓子であった。職場が変わり、私のお茶はお情けで小習いのお免状を下されたところで終わりになったが、成人式の頃になると花びら餅を食べたくなるという余韻は残った。
 とりわけ、数年前に内子のTさんに野久保さんの花びら餅を教わってからは余程のことがない限り、年の初めの月には、花びら餅を欠かさない。牛蒡の素朴な歯ごたえと白味噌がきいた餡のしっかりした甘さ、それを包んだ求肥の餅が一つになった味わいを楽しむのである。
「また、肥るわよ」という一言がそこまで出かかった家人にも「これ、おいしいよ」と言ってすすめ、ポットのお湯で茶を点てておいしく頂く。作法はすべからく失念することにしている。
 
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