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2011年11月号 掲載
第 120 回 賢治のカレー
 
 イーハトーヴ 
  



 児島駅近くに「イーハトーヴ」という喫茶店がある。カレーがおいしいと聞いて出かけた。インド風のカレーでとても気に入った。ドライカレーとスープのタイプと2種類をあわせた夢カレーというのがある。茹で玉子やチーズをのつけてもらうこともできる。向い側の若い女性は大胆不敵にも大盛りを注文し、巨大なご飯の山をスプーンで突き崩して、悠々と食べている。次は大盛りにしよう。珈琲もおいしいし、オレンジジュースも搾りたてだ。ケーキも試してみた。梨のタルトはお酒がきいていて、梨が少し固めだった。カレーを注文すると、しばらくしてカウンターの向こうの扉が開いてカレーの皿を両手で、ささえ持ったかわいらしいおばあさんが現れる。見るともなく見ていると、ほっとした気分になるし、大きな木のテーブルの端が少し傾いているのもおもしろい。常連さんの多い店だ。


イーハトーヴのカキとほうれん草のカレー

日生のカキのお好み焼き「カキオコ」
<2011年12月 追記>
12月に入って、季節メニューで「カキとほうれん草のカレー」がはじまった。カキには目がないのでさっそく注文した。とてもおいしい。ほうれん草にしゃきっとした食感が残り、カキの風味がカレーと渾然となって口中にひろがる。今年は東北の地震で三陸のカキの産地も大きな被害を受けた。愛媛などでは、広島が近いのにカキの価格が上がり、品薄になった。岡山は備前の日生や虫明など、深い 入江にカキの養殖筏が浮んでいて、今年も新鮮でおいしいカキが簡単に手に入る。先日、日生で評判の岩塩で食べるカキのお好み焼きを食べた。「タマちゃん」という評判の店だ。お好み焼きの外側はほこほこと香ばしく焼き上がり、中には新鮮なカキがぎっしりと入っている。頬張ると濃厚なカキの汁があふれ出て来て、ネギの甘味と岩塩の塩味が微妙に絡まり無類のおいしさだった。

  <2012年05月 追記>

パリの朝食のオレンジジュース
オレンジジュース
児島を去る二三日前に、夢カレーを食べた。めずらしく客の姿がなく、店の人と少しだけ言葉をかわした。カレーはインド風というよりは、ご主人のお母さんの長年の経験と好みを凝縮したかたちで今の味ができたとのことだった。メニューにはのっていないイワシカレーも一度だけ食べることが出来たが、とてもおいしかったことも付け加えておく。倉敷の仕事で、夏にパリで肉体労働をした。毎日、地下鉄の駅の近くのカフェで朝食をとったが、少しだけお金を足すと生のおいしいオレンジジュースが飲める。パンの味もよかったが、朝のひんやりした乾いた空気と新鮮なジュースの味に疲れが癒される思いをした。パリのカフェのも、倉敷えびす通り商店街の喫茶店「かっぱ」のものも、児島のイーハトーヴのも、みななつかしい味になった。(4月6日)

 
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