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2004年07月号 掲載
第 69 回 不二家のホットケーキ 
不二家 
今治市 
 

金星川のほとりにある喫茶店不二家

金星川には生活感あふれる町の個性が息づいている。
 徳富蘆花が青春時代の約一年半を過ごしたという今治の町を尋ねた。昔は城の外堀だったという金星川が、港のすぐ手前の閘門で暗渠になっている場所にある今治教会の記念碑から、その細い水路のような川にそって歩いた。川と平行に延びるアーケードの商店街に入ったり戻ったりしたが、うだるような暑さの日で、つい、小さな橋の袂にある喫茶店に立ち寄った。川に面した窓側の席に腰を下ろし、店の看板に従ってコーヒーとホットケーキを注文した。店にはご夫人がただ一人。古風で落ち着いた内装の店内には、小さな音でショパンのピアノ曲が流れている。歩いているうちに、汗が落ちたカメラのレンズを拭ったりして涼んでいると、スピーカーから聞こえてくる音楽はブラームスの子守歌からべートーべーンのトルコマーチに変わった。他に客は一人もいない。十分か十五分くらいしたころ、ホットケーキとコーヒーが出てきた。ホットケーキは時間がかかったのに納得が行くおいしさだった。なつかしい味と姿。日曜日にもう一度前を通ったが、お休みだった。
古色あふれる店内

不二家のホットケーキとコーヒー

 
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