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2000年05月号 掲載
第 37 回 桜餅 ●金沢市 おふく軒 
おふく軒 
 
TEL076-231-6748 



 松山との航空路線は途絶えたが、石川県金沢市おふく軒の和菓子が大好きだ。
 私は、金沢に行くと浅野川ぞいの木造三階建の木津屋旅館に泊まることが多い。早起きをして、主計町(かぞえまち)の検番の路地を抜け、石段を上がる。久保市乙剣宮に詣で、泉鏡花記念館になった森八菓子店のあたりから、だいたいの見当をつけながら香林坊の方向を目ざして歩きはじめる。あるときは、尾崎神社から尾山神社の方向へ歩く。あるときは近江町市場を抜け、若き村野藤吾の建築、中島商店などを見ながら歩く。どう歩いても、すこしくらい迷っても金沢の町を歩いていてあきることはない。そして小一時間ほども歩いてから市役所のとなり、県庁の真向いのおふく軒に行き抹茶を飲んで和菓子をいただく。
 三月末に所用で金沢に行ったときは桜餅だった。おふく軒の桜餅は柔らかすぎず、餡のあっさりした甘さと桜の葉の塩味がほどよくて、とてもおいしい。昔は、カツ丼や煮魚定食なども出す心安い定食屋さんだったが、その店先に季節の菓子が並んだケースが置いてあり、客足が絶えなかった。


おふくの桜餅。あんドーナッツもおいしい
 今は小さな真新しいビルに建ちかわり、菓子だけの店になったが、狭い店の片隅に坐る場所があって、金沢の茎ほうじ茶か抹茶で好きな菓子を食べさせてくれる。
 金沢の町の菓子は総じておいしいが、おふく軒は定食屋だった頃の店の雰囲気がなつかしい私には、やはり一味違うものに感じられるのである。
 
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