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2005年03月号 掲載

 
 
関 洋人 (大洲市在住)

イパネマの海岸
 誘拐のターゲットはもちろん裕福な経営者など富裕層の子弟が多い。身代金が支払われて無事解放というパターンが多いのだが、身代金の金額があまりに高騰したため身代金の分割払いまで始まった。例えばリオ工業連盟会長は息子の身代金一億五千万円を三分割で支払った。さらに、誘拐を恐れる富裕層の中には、家族をアメリカに避難させたり、自宅の庭にライオンを放し飼いにしたりする人も現れている。カルナバル期間四日の間の死者はリオとサンパウロだけで三百人に近い。血なまぐさい事件も頻繁に起こる。リオのとある病院の手術室では盲腸の手術中に、執刀していた外科医が同僚の外科医に撃ち殺された。手術はそばにいた別の医師が引き継いでことなきを得たが、患者は局所麻酔だったため、事件の一部始終を至近距離で目撃し、余りの凄惨さにショック状態に陥ったという。一九九二年末には当時の最高視聴率九十パーセントを誇った超人気テレノベラ(長期間にわたり毎日定時に一時間程度放送される連続テレビドラマ)「身も心も」の主役だった恋人役同士の殺人事件が番組放送期間中に起きた。一九九三年東北部パライバ州のレストランでは現職州知事が口論の果てに前州知事を射殺してしまった。有名、無名にかかわらず、この直情性、暴力性の背景にあるのが、未だにバンギバンギ(西部劇)の側面を色濃く残しているブラジル社会の伝統そのものなのだ。
(つづく)

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