過去の連載記事
同じ年の連載記事




第9回 四国アルプス 美川スキー場
 
 
 スキー雑誌の全国スキー場案内の頁をめくると、なぜか四国という項目だけがない。情けないやら、腹立たしいやら何種類か手にとってみたがどれも同じだ。よくよく見ると、四国のスキー場は、まるでおまけのように、人工雪だけのスキー場などと一緒に巻末に小さく取り扱われていた。
 しかし、「秘すれば花」ということもある。わが伊予の誇る美川スキー場に行ってみた。

 軍艦岩
 国道33号線を松山から車で約1時間、久万町を経て上浮穴郡美川村に入ると、久万川と面河川の合流点、御三戸というところに軍艦のような形をした巨岩がある。その軍艦岩を左に見ながら橋を渡ると、すぐ右に美川スキー場入り口の看板がある。そこから急な坂道に入る。約25分ほど走り、大谷組の集落を過ぎる頃、たおやかな大川嶺連山の山裾にゲレンデが見えて来た。つづら折れの道をさらに上るとスキー場と反対の方向に、3角形の姿が美しい明神山が青空にかすんで見えた。快晴で路面に雪はほとんどない。大谷組の集落から、ゲレンデはかなり高い場所にあるように見えたが5分も走ればスキー場の駐車場に着いた。
 茅場がスキー場に
 美川スキー場は、昭和35年に開設された。スキー場がある場所は、元は、大谷組の茅場であった。山登りの若者たちがいつの頃からかスキーを担いで山に上がり、大谷組の民家に民泊して茅場に積もった雪の上でスキーを楽しむようになったのがスキー場ができるきっかけになった。613メートルの長さの第一リフトが完成したのが昭和40年のこと。現在は4基のリフトが稼働中だが、当時のスキーは、雪景色を楽しみながらゆっくりと歩いて登り、滑っては又登るというのんびりした遊びだったようである。
 モミの木ゲレンデ
 ゲレンデへの連絡リフトのすぐ下にある村営ロッジ白銀荘(大人1泊2食付き5,300円税別)にチェツクインしてすぐゲレンデに上がってみた。リフトに乗ると、風は春のようで周囲の四国アルプスの山々がよく見える。
 現在(12月14日)は初級から中級向けのモミの木コースだけが滑走可能である。早速、明神山を見下ろしながら滑り始めた。雪はこの暖かさにしては、とてもよい。ゲレンデの幅も広いし約400メートルほどの長さも久しぶりにスキーを履いた私には丁度よかった。見渡すと、スノーボーダーとスキーヤーが半々くらいだ。ゆっくりと、10本ほど滑って、軽く汗をかいた。
 白銀荘で夕食。キジ鍋と今年初めて獲れたという猪汁が特別に出された。夕食の後、第1リフト下にある管理事務所を訪ねた。美川村役場の林克也さんに、スノーマシンによる人工降雪のお話を聞かせてもらうようお願いしていたのである。
 人工雪はかき氷とは違う
 管理事務所では、林さんと昭和63年のスノーマシン導入以来の人工降雪のベテラン坂本勝行さんが待っていて下さった。美川スキー場の歴史と概要や、近年の暖冬化以降の人工降雪導入についてお2人から説明を受けた。人工雪といってもかき氷ではない。ノズルから噴射した細かい水滴を、自然の冷気で凍らせて自然雪以上の粉雪を作るのである。現在は、ナイター営業時間が終わった午後10時以降、徹夜で12台のスノーマシンがゲレンデ内に雪を降らせている。ゲレンデの気温が零下2度を下回ると事務所内にブザーが鳴り響き、待機している坂本さんたち人工降雪の担当者がマシンを出動させる。マシンを置く場所は、日中に全員が何度もゲレンデを歩き、状態を確認して決める。しかし、風向きなどの気象条件により、雪が不足している場所での降雪作業が難しいこともあり、どこにマシンを配置するかについては総合的な判断が要求される。担当者の間で徹底的に議論するが、降雪の効率だけでも、又雪の不足だけでも場所はなかなか決定出来ない。迷いに迷って決める日もあるそうだ。
 雪を降らせる
 人工降雪では、美川1番のベテラン坂本さんがスキー場の最上部、第1リフト終点付近に雪を降らせるのに同行させてもらった。今日は、月夜である。ときたま強い風が吹き抜けていくが、それほど吹雪いてはいない。気温は零下2度だ。2台のスノーマシンがゴーッという音を発しながら、ものすごい勢いで雪を降らせている。坂本さんは降り続ける雪の下に入ってじっと雪質を確認される。気温が上がり、みぞれになっていればマシンを止めなければならないこともあるそうだ。坂本さんがノズルの位置を調整してからスカイラインコースを2人で下った。坂本さんは雪を踏みしめながら軽い足取りで下りて行く。晴れた夜空に星が美しい。正面には、オリオンが見える。
 「2月も半ばになるとな、降雪作業が終わる明け方の3時頃に金星がモミの木コースの北の方に見えるんよ。月夜の日でも、金星は、ほんとに、はっきりと見える。金星を見ながらもうスキーシーズンも後1月じゃなぁいうて思うんよ」と坂本さんが言った。次の点検は午前2時だ。坂本さんは、再び山頂に登られる。きつい作業である。坂本さんたちの冬を通しての徹夜の作業に支えられて、今年も又、美川の山に粉雪が降り積むのであった。

MIKAWA SKI GELANDE GUIDE
● 毎週水曜日は女性のみリフト1日券が¥3,500→¥2,000・男女ともスキースクール
無料講習実施。

● モミの木コースは、土・日・祝前夜、ナイター営業
● リフト1日券 \3,500・回数券(11枚) \2,500
● スキーセットレンタル一式 \3,500
 
● 宿泊施設
村営白銀荘 TEL0892-56-0316
大谷山荘 TEL0892-56-0537
観光会館 TEL0892-56-0530
● 積雪状況テレフォンガイド
TEL0892-56-0050
● 美川村スキー場管理事務所
TEL0892-56-0135

Copyright (C) TAKASHI NINOMIYA. All Rights Reserved.
1996-2012


御三戸(みみど)の軍艦岩
それぞれの写真をクリックすると
大きくなります

大谷組の集落

久しぶりのスキー場だったがスノーボーダーの多さに驚いた。

モミの木コースは足慣らしに最適のコース。快適である。



坂本勝行さん。昭和六三年のスノーマシン導入以来の人工降雪のべテラン。ミス愛媛みかん坂本優美さんのお父さんである。

スノーマシンでの人工降雪(第一リフト頂上)



美川村役場林克也さん。営業時間中はゲレンデの安全管理と積雪状況の確認に忙しい。夜間もスキーヤーからの問い合わせにきめ細かく対応。取材中、大げさでなく、ほぼ5分に1度の割で掛かってくる電話に林さんは、驚くべき誠実さで答えていた。

パトロールの中川さん(砥部町出身)と坂本さん。

美川村には上黒岩岩陰遺跡がある。
最古の縄文式土器が出土した。

美川村には美しい木造校舎が多い。美川村立仕七川小学校。