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ときわ旅館
大三島、宮浦港に近いときわ旅館で出発準備をするツアーの人たち。
大三島が、しまなみ自転車道のほぼ中間点にあたる。
第133回 しまなみ海道自転車旅
 
 今治市 糸山サイクリングセンター~大三島
 自転車雑誌の編集長をしている学生の頃からの友人が夏休みに、仲間と連れ立って尾道からしまなみ海道をツーリングすると電話してきた。私は糸山サイクリングセンターから出かけて大三島で合流することにした。

 (それぞれの写真をクリックすると大きくなります)
糸山サイクリングセンター

- 友人 -
多々羅公園で。しまなみ海道には毎年一度以上はやってくる。
 きびしい残暑がずっと続いている。六十歳まで五年、体力にそれほど自信はない。五年近く前に八幡浜市若山に自力でマウンテンバイクの本格的なコースをつくった人たちを、雑誌「サイクルスポーツ」編集長を務めていた友人が取材に来た。その時、彼の取材に同行し、勧められて買ったマウンテンバイクはもう長い間、放置したままだった。大三島に出かける前に、今はオリンピック出場選手を決める大会が開かれるまでになったコースを最初につくった人の一人、佐藤さんに基本的なチェックしてもらった。頑丈でシンプルな機種のせいか、これという問題はなかった。
 自転車で尾道方向に出かける時の起点となる今治市の来島海峡大橋の袂にある糸山サイクリングセンターに着いたのは午後5時。大三島の宿には遅くとも午後8時には着かねばならない。。駐車場に車を停め、急いでスタートする。螺旋状の進入路を、ゆっくり回って登り、来島海峡大橋に入った。自転車で上がるのは初めてだが、車で通る時よりも、景色がぐっと迫ってくる感じだ。日中は猛烈な暑さだったが、後ろから涼しい追風が吹いてきて、出だしはよい。来島海峡大橋は、平成11(1999)年の開通、来島第一大橋960m、第二大橋1515m、第三大橋1570mと三つの吊橋が連なり、総延長が約4キロ強。下に見える小島や岩礁の灯台、遠くに見える今治の町などをちらっと眺めながら、ひたすら自転車を漕ぐ。15分ほどで橋を渡り、最初の大島に下りる。一般道に下ると、道は少し登ってしばらく下る。亀老山の展望台への分岐を過ぎると、道がだんだん平坦になり、ゆっくりと長い登りに転じる。結果的に言うと、伯方・大島大橋までの、この一般道の登りが大三島に渡るまでで、いちばんの難所だった。風景が変化にとぼしいせいか、思いの他距離を感じてしまう。坂を上り切ってから一気に宮窪に下り、左にまがって、橋への進入路に入る。この登りはそれほどではない。、伯方・大島大橋は一体構造になっている伯方橋と大島大橋の総称で、長さは1230m、開通は1988年1月である。あっという間に伯方島に下り、大三島橋に向かう。少し日が傾き、西の空が色づいてきた。

大三島

- 大三島橋 -
夕焼けの大三島橋で自転車をとめて写真を撮る。車では無理だ。


- 大三島の町並み -
朝の宮浦港への道は高校生の通学路、町並みが美しい。
 大島に比べると、伯方島の一般道は短かった。鼻栗瀬戸に架かる大三島橋への登りもそれほどきつくはない。橋はアーチ橋、長さは328m、開通は本四連絡架橋では一番早い1979年という。橋の真ん中辺りで自転車を停めて夕焼けに染まった鼻栗瀬戸の写真を撮る。橋を渡るのには10分もかからないが、一般道への下りは割りと長めであった。平坦な海沿いの道に出て多々羅大橋に向かう。1999年に完成した広島県生口島と愛媛県大三島を結ぶ、世界最長の斜張橋だが、今日は下から眺めるだけ。目的地である島の北部、宮浦港へと先を急ぐ。新しい温泉施設を過ぎて左折、最後の長い坂、三村峠にさしかかる。急坂を自転車で下ってくる部活帰りの高校生とすれ違いながら、ゆっくりと登る。坂の頂上で時計を見ると午後6時40分。なんとか7時には宿にたどり着けそうだ。
 今度は自転車を押して登ってくる高校生とすれ違いながら、一気に坂を下って大山祇神社の鳥居の前を過ぎると宿の看板が見えてきた。どこにも寄らずひたすら漕いで糸山から約2時間と少し。無事にたどり着いた安心感のせいか、疲れが心地よい。


- 朝の大山祇神社 -

- 大山祇神社の斎田 -

自転車のよさ

- 帰路、来島海峡大橋を大島の自転車進入路から眺める。 -
間近に迫る橋、海面の潮の流れや、ひっきりなしに行き交う船。風景が迫ってくる。
 友人達の一行は五十代後半から六十代中心のグルーブで女性も二人いる。雑誌「サイクルスポーツ」が主催する海外自転車ツアーに友人と参加して世界の名だたる自転車専用道路を何度も走った人たちだ。「しまなみ」も二度目以上のリピーターが多く、話していると、日本にはまだ少ない自転車専用道路に対する熱い期待と好意を感じた。
 最近、朝日新聞社から文庫版が出た『自転車生活の愉しみ』(朝日文庫版)という本に、著者の疋田智氏が氏に語ったという友人の言葉を引いていた。
「人はね、自転車に乗る環境さえ整えば、必ず自転車に乗るものなのです。いい例が瀬戸内の「しまなみ海道」です。島と島を繋ぐ七つの大橋のすべてを自転車で通れるようにした。結果レンタサイクルが大繁盛です。人は本当はみんな自転車が大好きなのですよ。安全に、そして快適に走ることができるのならば、人々は必ずみんな自転車に乗ります」
 私は今回「しまなみ」の半分の道のりを走っただけだが、この楽天的な断定口調に心から賛同したくなった。ストレスの無い専用道路を風を浴びながら走っていると、自由でせいせいした気持ちになる。苦しい登りの後には必ず下りがある。当然その逆もあるが、狭い路側帯を車に威嚇されながら走るのとは大違いだ。翌日は、友人達とゆっくり散歩モードで、寄り道をしながら糸山に帰った。糸山サイクリングセンターにはサイクリストのための無料シャワーまであった。次は尾道まで走りたい。

- かき氷 -
今治はかき氷がおいしい。
写真は不二屋の、クリーム金時。
自転車の旅はいろいろ愉しみがある。

- あこうの刺し身 -
帰りに来島海峡大橋を下りた今治市大浜の「浜勝」で旬のあこうを食べた。
あらいや煮付け、釜飯など。

 
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