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第32回 日本一のみかん
 
八幡浜市川上町上泊 
 愛媛は日本一のみかんの国。その中でも八幡浜市の向灘(日の丸)、真穴、川上は品質日本一との折り紙がつけられた温州みかんの3大産地として全国に知られている。早生みかんの出荷が最盛期を迎え、最近、消費者に人気の高い南柑20号の収穫が始まった八幡浜市川上町に出かけてみた。

 天皇杯の川上みかん
 寒気が緩んだ風もなくあたたかい日である。八幡浜港の栗の浦ドックから、細く曲りくねった国道378号線に入った。諏訪崎を越えると、入り組んだ海に山が迫った風景が続く。まわりの山はすべてみかんの山である。きらきらと光る静かな入り江には、繋留された漁船や、養殖いかだが浮かび、沖あいには、空と海がまじわるあたりに小さな島々や佐田岬半島がうっすらとその姿を見せている。国道の拡幅工事が終わった川名津湾に出たところで狭い旧道に入り、西宇和農協川上共選(共同選果場)を訪ねた。
 日本一の品質を誇る、八幡浜市の温州みかん3大産地の一翼をになう川上共選は、組合員の農家が224戸、温州みかんの果樹園面積は268ヘクタールに及ぶ。平成8年の生産量6,300トン、販売額は23億円に達し、同年に行われた第35回農林水産祭の園芸部門で、最高の栄誉とされる天皇杯を受賞した。糖度と酸味のバランスがとれた日本一といわれるみかんの品質はもちろんのことであるが、女性の農業経営参加や後継者育成への地区一帯となった積極的な取組み、多目的スプリンクラーや標高50メートルごとの農道設置など急斜面の園地での省力化に向けた基盤整備が高く評価されての受賞であった。川上地区では、農業簿記の記帳は若い主婦がパソコンで行い、青色申告をする農家が組合員の半数以上もあるという。
 石垣のみかん園
 平成9年4月に就任された清水和義川上共選長にお会いして、収穫に入ったみかん園を見せて頂くことになった。清水共選長は、川上町上泊で約2町5反(約2.5ヘクタール)のみかん園を親子3代で経営されている。清水共選長の案内で国道から山手の農道に入り、早生温州を収穫中のみかん園に上がった。共選長の曾祖父の代から、急傾斜の斜面に営々として築かれた石垣のみかん畑である。石垣は年経たものや、新しく築き直したものなどさまざまであるが、通路以外にはコンクリートは少しも使われてない。「もう聞かれたかも知れませんけど、「3つの太陽」いうて、1つは太陽の直の熱、2つ目が海からの照り返しの熱、3つめが日中に太陽や海面からの反射で温められた石垣の輻射熱。これが川上のみかんをおいしくするんです。石垣は水はけもいいしね」。だから、たとえ少しくらい手がかかっても石垣だけは変えられないのだと共選長が言われた。
 選果場にもどられる共選長と別れ、みかん園の最上部に上がった。標高約300メートル。川名津湾の向こう側に見える白石のみかん山からこちら側まで、湾を囲む山々、見渡す限り、すべてが石垣のみかん園であった。
 人の手で摘むみかん
 「チャッ、チャッ」、「チャッ、チャッ」というみかんを摘む鋏の規則正しい音が聞えてくる。みかんを摘んでいるのは、共選長の奥さんの良子さん、長男の正仁さん、喜多郡内子町満穂(みつほ)から毎年応援に来る上田道広さんのグループだ。
 鋏と袋を借りて一緒にみかんを摘ませてもらう。「枝になってるのを、色をよくたしかめてね。下がまだ青いのはだめよ。1度目は少し枝を残して摘んで、2度目は鋏の先を少し下にむけて枝をきちんと取ってね。残った枝が他のみかんの皮を傷つけないように、平らにしとかないとね」と教わる。摘みはじめてみると、簡単なようでなかなか難しい。慣れないと熟れているかどうか不安が残るし、摘んだみかんの枝の残り具合も心配だ。最初は良子さんに、いちいち聞いて確かめながら摘む。
 成木の高い樹の場合は脚立にのって摘む。樹の下の方に成る実も多い。若木が増えた最近は摘みやすくなったが、良子さんが嫁いできた頃は背の高い成木がほとんどで、たいへんだったそうだ。1つのみかん畑でも樹によって、また実のなる場所によって熟れ具合が違うから、時期を3回くらいにわけて収穫するのだそうだ。「分割採取」といい、手間はかかるが、川上地区ではみかんの品質を安定させるためにすべてのみかん園で徹底して実施されている。
 内子から応援に来た上田さんは、農業者の交流会で清水共選長と出会った。内子ではぶどう園を経営されているがお互いの繁忙期に人手を出し合うようになった。
 作業の間には、世間話をしながら、冗談も飛び交うが、鋏の音だけは途絶えることがない。良子さんに、「鋏の音はどんな風に聞えますか」と聞いた。「そうやね、鳥がチョッ、チョッて鳴くみたいかな」との答えが返ってきた。1日でどのくらい摘めるものかと良子さんにたずねた。「1人が、1日、20キロ入りの容器に20箱以上は摘むと思うけど、熟れ具合、樹や畑の条件によって簡単には言えないのよ」とのこと。ここでは、ただ、みかんの数を摘むためだけに摘むのではなくおいしいみかんをいちばんおいしい時に摘んでいるのだということがわかった。
 愛媛で取れるみかんの個数は億を越える。今まで、なにげなく口にしていたそのみかんは、すべてこうやって人の手によって、注意深く摘まれていたのだということが実感をもって迫ってきた。
 親子3代のみかんづくり
 清水家は親子3代でみかんを作っている。清水さんのお父さん正美さんは87歳。最近は家にいることが多いが、春先の剪定や川上のブランドみかん「小太郎」の袋掛けなどをされることもある。共選長の和義さんは、出荷時期はほとんど選果場、良子さんと長男の正仁さんが収穫の主役になる。正仁さんのお嫁さんの千春さんは結婚前は税理士事務所に勤めていた。炊事とパソコンを使っての農業簿記と青色申告は千春さんの担当だ。
 昼休みの時間にご自宅で共選長にみかんづくりについてお聞きした。「春に花付きを見て新芽と花のバランスでその年の作柄を見ます。夏の暑い時に摘果をする。収穫のときはかたちが見えていますから忙しいなりに張りが出ますが、夏の摘果は先が見えん作業ですからしんどいんです。みかんで1番大事なのは9月から10月の天気です。いままで手を掛けてきたものがこの時期の天候次第で良くも悪くもなる。気が抜けません」
 園地の基盤整備、品種改良を重ねるとともに、産地の栽培技術を高いレベルで均質化するために共選が中心となって知恵を尽くす。組合員の結束では川上はどこにも負けないと共選長は言う。3年先の分まで苗木を手当てし、みかん畑の古木の側には必ず苗木を立てる。将来を考えた、心のこもったみかんづくりである。
 帰りがけに、共選長にお好きなみかんはどの種類ですかと聞いてみた。「早生の小さい球を、冷やいとこにおいといて、皮だけを干からびさせて正月あけて食べると、甘味がほどよく濃くなっていちばんおいしいと思う。皮を干からびさしたら商品にはならんけどね」と言ってにっこり笑われた。

川上共選は、早生温州みかんの個性化商品、●マイソフト(10月下旬出荷)●味ピカ(11月下旬~12月下旬)、感熟キッス(12月下旬から1月)●小太郎(1月~3月)の開発で収穫出荷の期間を大幅に伸ばした。人気の南柑20号を始め、川上みかんのお問い合わせは、
西宇和農協協同組合川上共撰
〒796-0000 八幡浜市川上町川名津甲1020-1
TEL0894-27-0311



みかんの大きさについての規格

3L 8.0~8.8cm
2L 7.3~8.0cm
L 6.7~7.3cm
M 6.1~6.7cm
S 5.5~6.1cm
2S 5.0~5.5cm
3S 4.5~5.0cm

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1996-2012


みかんを摘む人の表情は明るい。丁寧に皮に傷を付けぬように、2度、鋏を入れて摘む
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川上町川名津湾と上泊のみかん畑

清水千春さん。
農業簿記と収穫出荷時期の炊事はお嫁さんの千春さんが引き受ける。パソコンで青色申告までできる。

八幡浜市川上共選清水和義共選長
みかん一筋。上泊で

脚立にのって高いところを摘む

急斜面、段々畑のみかん園。



左が早生、右が南柑20号。早生の方が皮が薄くつるつるしている。形が丸い。南柑20号は少し偏平で、皮の表面が少しだけあばた気味。

モノラックによる搬送。清水正仁さん。

出荷の最盛期を迎えた川上共選の選果場、徹底した品質管理

川上のブランドみかん「小太郎」の袋掛け