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第127回 国道378号線紀行
 
 宇和島市吉田~西予市明浜~西予市三瓶
 正月の休みに伊予吉田の白浦から三瓶まで、国道378号線を走った。変化に富んだ海岸線の景色と津々浦々の集落が待ち受ける素晴らしい道だった。

 (それぞれの写真をクリックすると大きくなります)
吉田から明浜へ
 出発点は吉田町白浦の「もりた菓子舗」にする。私は、この店の「黒まん」という黒砂糖の餡のまんじゅうが好きである。「黒まん」に引かれたこともあるが、吉田を出発点にすると海が常に進行方向の左側、車の側にあるので、車窓の景色がすぐれているのである。
 もりた菓子舗で「黒まん」を20個ばかり包んでもらい、法華津湾沿いに走る。右手に長屋門が見えてくると、玉津宮野浦の集落である。県の果樹試験場南予分場があり、今は新しいみかん研究所が完成間近だ。最初から饅頭の話ばかりになるが、長屋門から旧道に入り、小学校を過ぎた法華津バス停前の山村菓子舗の薄皮まんじゅうもおいしい。「黒まん」とこの薄皮饅頭をつなぐ道は私のまんじゅう街道になっている。(点描参照)

- 国道378号線明浜町狩浜から高月山 -
 深浦トンネルを抜けると、道はまた湾曲しながら玉津深浦、池の浦と小さな漁村を過ぎて行く。10分ほどで俵津に着く。郵便局や交番もある、やや大きな集落である。俵津の町を抜け、渡江、狩浜と2つの漁村を過ぎると、道がどんどん上りはじめ、あっという間に、左側に見える海がずいぶん下に見えるようになる。道路から上の山側の段々畑も、道路から下の海まで続く段々畑も蜜柑の収穫は終わっているが、すでに菜の花が咲き始めている。少し行ったカーブの曲がり鼻に「お伊勢山」という案内板がある高さ10メートルほどの小山があった。階段が切ってあって展望もよさそうだ。その先から道が下り始め、また海面が近づいてくる。リアス式海岸の見本のような所だから、あいかわらず、道はずいぶんとくねくねしているし、海と山が迫った景色は抜群である。
 下りきって道が平坦になると高山の大早津海岸である。道が海水浴場の手前に差しかかると、正面右手に、すさまじく削り取られた石灰岩の岸壁が見えてくる。かつて明浜町の主要な産業であった石灰製造の原料である石灰石の切り出し場の跡である。石灰は、近世・近代の庶民生活には必需品であった。土蔵の白壁に塗る漆喰の原料や、瓦のつなぎ、船底の垢止め(水漏れ防止の目地材)、肥料など、さまざまに用いられた。
 大早津海岸は、夏は海水浴場として賑わい、キャンプ場や「はま湯」という温泉施設もある。西予市宇和町から峠を下れば遠くはない。
 
断崖の下の道から大崎灯台へ

- 崖下を走る明浜町田野浜への道 -
 大早津を過ぎ、役場や小学校のある高山本浦に入る。高山港が、石灰積み出し港として繁栄した時代を思わせる家並みが残っているが、今日はそのまま通りすぎる。高山宮野浦を過ぎ、宮野串から岩井という集落に入ると道の右側に、かつて石灰石を焼いて、石灰を作った石灰窯が残っている。石灰窯を過ぎて少し行くと、道は海沿いに続く断崖の下の道になる。海面に近い1車線の道の上に、まるで、今にも崩れ落ちそうに、網の掛けられた断崖が覆いかぶさっている。道はほぼ海の高さに近づき、左手には美しい海岸が続く。沖には戸島や嘉島、日振島が手に取るように見える。この辺りの風景は、このコースのハイライトの1つである。
 田野浜に入ると崖下の道は終わり、国道は海から離れ、カーブを繰り返しながら、一気に上り始める。上りきった所が大崎鼻。大崎灯台へはそこから、左に細い道を下り、途中の分岐を左に折れて、さらに下った道を上り詰める。小さな灯台には、地域の人々が植樹した公園があり、岬の尖端に突き出した展望台からは、宇和海のパノラマが楽しめる。


- 西予市明浜町大早津の石灰石切り出し場の跡 -

- 三瓶町蔵貫 -
海に注ぐ三島川河口にカモメの群れが

- 三瓶町皆江。海から1本入ると長屋門の民家があった -

ケン食堂
  大崎鼻から山側の崖を切り落とした道を下る。木々に囲まれた道である。しばらく行くと「魚霊塔」の案内板がある。左手の海側に300メートルほど行くと、景色のよい小さな公園が有って、そのモニュメントがある。三瓶湾漁協により、魚の霊を慰め、漁業の弥栄を願うために建てられたものという。

- 魚霊塔 -
 下泊、神子の浜、枯井と道は、上り、下り、曲がりながら、小さな湾や岬のふところに開けた美しい集落を過ぎて行く。皆江から蔵貫に着いたところで車を止める。三島川河口の海岸でカモメの群れを見た。
 有太刀を過ぎ、赤崎の小さな半島を引き返すように曲がる時、岬の鼻と指呼の間にある福島が見える。もう、三瓶港はすぐそこである。
 有網代のバス停を過ぎ、三瓶湾にそって右に1つ、曲がり、さらに左に曲がると正面にケン食堂の看板が見えてくる。
 ケン食堂は、小さな洋食の店だ。一度、ふらっと入ったらとても味が良かった。うちの犬猫が世話になっていた三瓶出身の獣医さんに、その話をしたら、「うん、あそこはなんでもおいしいよ」とうれしそうに言われたことがあった。(ごちそうノート参照)
 吉田を11時近くに出て、1時過ぎ。灯台や、魚霊塔にも寄ったし、写真も撮った。時間がかかるといってもたかが知れている。 私は迷わず、門松の立ったケン食堂の店の前に車を止めて、昼食を取ることにした。

無名の良さ
 今回の小さな旅で走った道は、国道とは言え、余り人に知られぬ道である。同じ国道378号線でも松山に近く、伊予市から海岸線を快適に飛ばせる辺り、夕陽や菜の花で知られる双海は訪れる人も多いが、吉田から明浜、明浜から三瓶のルートをわざわざ走る人は少ないだろう。


- 西予市明浜、岩井から田野浜あたり -
 実際、先を急ぐ人なら、国道56号線を通り、西予市宇和町からトンネルを越えて三瓶に下ったほうが道路の幅も広いし、時間はかからない。この、しばしば1車線の区間が現れる海岸沿いの道は、利便性や時間という点ではひどく効率が悪いのである。しかし、その「マイナス」がそのままこの道路の美質を保証していると私は思う。カーブや起伏が多いために、宇和海と戸島や嘉島、日振島などの島々、法華津峠や高月山、標高1000メートルを越える宇和島の鬼ヶ城連山などが海の上に何度も角度を変えて現れる。時間がかかると言うことは急ぐ人はやってこないということで、往来する車の運転ものどかな気がする。知られた観光地のように混雑することもない。そしてなにより、かけがえのない風景と生活が息づく静かな海辺の集落が次々と現れる。それらの集落には、釣り人のための渡船や民宿、小さな旅館もあり、宇和島自動車のバスも通っているので、宿を確保して、何日かかけての徒歩旅行も1度試みたいと思っている

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